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『ウルトラセブン』
「アンドロイド0指令」

「悪夢〜真夜中のデパート」
*関連トピック:ホームシックとキングジョー」




 幼稚園児のころから、おそらく小学校1、2年生くらいまでのことだったと思います。
 繰り返し見る恐い夢がありました。
 設定も展開も登場人物も毎回同じで、夢のはじまり方も終わり方も常に同じ。
 こんな感じです。



 自分がデパートの中で迷子になっています。
 迷っているうちにどんどん時間が経過していって、周囲の客が少しずつ減っていき、最後は無人になってしまいます。
 閉店時間が過ぎてしまったようで、店内の灯りが消灯し、いくつもの出入り口に自動シャッターが降ろされます。

 まっくらなデパートの中に閉じこめられたわけですが、なぜか僕はあまり恐怖心を感じず、わりと冷静な気持ちでフロアを歩きまわり、自分の親だか祖父母だか、とにかく「保護者」を探し続けます。
 周囲には外人の女の人や子どものマネキンが乱立していて、その凝固した死体の群れのようなマネキンの間をうろうろしているうちに、徐々に恐怖心が高まっていきます。
 薄暗い空間に立ちすくむ無数のマネキンたちは、ウインクをしたり、笑顔を見せたりしながらポーズをとっているのですが、みんな中空のどこか一点を見据えていて、誰も僕の方を見ていない。
 「群衆に囲まれているのに、ひとりぼっち」という感じが異様で、僕はだんだん早足になって、周囲を見ないように下を向きながら、半泣きでさまよい続けます。

 しばらくすると、どこかから、カタカタ、ガチャガチャ、ピーピーといったにぎやかな音が聞こえてきます。
 誰かがいるのかも知れないとそちらの方へ向かうと、そこはオモチャ売り場で、展示品の電気仕掛けのオモチャが、無人の売り場で動き続けています。
 火花を散らすブリキの戦車とか、電池で歩きまわるロボットとか、おしゃべりするお人形とか、天井から糸で吊され、くるくるまわりつづける飛行機とか。
 それらの無意味に作動しつづけるキカイを見ているうちに、ますます恐くなって、僕はオモチャ売り場を全速力で走り抜けます。

 すると、今度はやけに暗くて広いフロアに出ます。化粧品売り場か、宝石売り場のようなところで、ガラスのショウウインドウがたくさん並んでいるのですが、なにを売るところなのかはよくわかりません。

 突然、背後でゴトッという大きな音が聞こえ、ビックリしてふりかえると、それまで止まっていたエスカレータがガーガーと大きな騒音をたて、上の階に向かって動きはじめます。
 僕は「上の階に人がいるんだ。誰かが僕に気づいてエスカレーターのスイッチを入れたんだ」と思い、そのエスカレータに飛び乗ります。

 そのエスカレーターはどこまでも続いていて、頂上は闇のなかに隠れて見えません。
 僕はいつまでもいつまでもエスカレーターで上へ上へと運ばれ続けます。

 ようやく頂上が近づいてきたようで、エスカレータが途切れる地点がぼんやりと見えてきました。
 そこに、二人の人間が立っています。僕を待っているようです。知らない人たちです。

 近づくにしたがって、だんだんと二人の輪郭が明確になっていきます。
 左にいるのが初老の男性で、黒いシルクハットと黒いマント、ステッキを持ってヒゲを生やしていて、なんだかインチキな手品師みたいないでたち。
 右には、袖のないワンピースを着た女の人が立っています。髪の長いスラリとした人で、とても美しく、やさしそうに見えます。
 ただ、二人とも、僕の方を見ていなくて、マネキンじみたガラス玉のような目玉で、まっすぐに中空を見据えています。

 僕は、この人たちに助けを求めるべきか、あるいはこの人たちから逃げるべきかを決めかねて、ただジッとしたまま、エスカレーターに運ばれるにまかせています。
 僕はどんどん二人に近づき、二人の顔がおぼろげな闇のなかで徐々に徐々にはっきり見えてきます。
 もうすぐそこに女の人の鼻先がある、という地点に来たところで、僕は心の中で「あ!」と叫びます。

 その女の人の顔は、オレンジ色のゴムでできていて、一面に細かいヒビが入っていました。

 僕はきびすを返して、エスカレーターを逆走しようとするのですが、いくら下に向かって走っても、体は上に運ばれてしまいます。身じろぎもしない二人の方に、僕の体はどんどん吸い寄せられてしまいます。



 ……というところで、いつも目が覚めました。

 死ぬほど恐い夢なんですけど、小学校に入ってからしばらくするとまったく見なくなりました。
 大人になってからもはっきり覚えていて、自分としては「お気に入りの夢」のひとつとして殿堂入りしているんです。

 好きな部分はいくつもあるんですが、まず、幼少期の「デパートで迷子になることの恐怖」が、かなりうまく表現されていること。「はぐれるかもしれない」という幼児特有の恐怖が、この夢の根底にあると思います。

 また、うちの実家はその昔、子供服屋さんをしていて、いくつもマネキンがありました。「閉店後の暗い店内のマネキンの群れ」の不気味さは、そのころの記憶が反映されているのだと思います。

 さらに、「オモチャ売り場が恐い」という場面は、もっとも好きな場所がなにかのきっかけでふと奇妙な空間に転じる、みたいな、子どもならではのアンバランスな感覚のなせるわざです。

 で、最後の「女の人の顔がオレンジ色のゴムでできていて、無数のヒビが入っている」というくだりは、当時の家の台所のガス管が影響しています。
 そのころ、家のガスレンジに接続されているガス管がオレンジ色で、古くなっていたせいでしょう、表面に細かいヒビがたくさん入っていました。
 小さかったころの僕は、なぜかそれがヘビみたいで気持ち悪くて、流しで手を洗ったりすとき、なるべくそちらを見ないようにしていました。

 というわけで、この夢には幼少期の僕の個人的な記憶が過不足なく組み込まれていて、しかも、かなり上手にまとまっている。
 ちっちゃいころにこういう夢を見ていた自分は、なかなかエライ、と思っていたわけです、つい、この間までは。

 先日、6つ年上の人とご飯を食べたときに、この夢の話をしました。
 「シュールな夢でしょ?」と言ったら、その人はゲラゲラと笑いだし、「それとまったく同じ場面が、『ウルトラセブン』に出てくるよ。ネットで検索してごらん」なんて言うんです。

 あれこれ検索して、どうもこれらしいという回を特定して、DVDを借りてみました。



 さ、さ、最っ低!
 なんだ、これ?

 ってことは、僕の悪夢はただのパクリ?
 30年以上にわたって、「小さいころによく見た不思議な夢」の思い出として、大切に胸にしまっていた僕の悪夢、『ウルトラセブン』のまるパクリだったの?

 ……そう。まるパクリだったんです。

 第9話「アンドロイド0指令」というエピソードに、ほぼそっくりそのまま僕の悪夢が出てきます。
 非常に評価の高いシナリオで、やはり当時の子どもだった人の多くがトラウマとして記憶しているらしい。
 僕はリアルタイムで『ウルトラセブン』を見た世代ではないんですけど、再放送で見て、無意識に自分の夢に流用したようです。

 僕のオリジナル演出は、最後に現れる二人の姿のみにほどこされていました。
 「インチキ手品師」は、原作(?)ではただのオジイサン。
 で、顔がゴムの女の人は、小林夕岐子という美しい美しい女優さんが演じていて、アンドロイドという設定ですが、ヒビ割れゴムどころか、あまりに可憐な70'sビューティーといったお姿でした。

 このときの小林夕岐子の無機質な美しさは、特撮系マニアの方々には伝説になっているそうで、たぶん、幼少期の僕 も「この人、キレイだなぁ」とは思ったんでしょうが、ちょっと不思議な美しさで、僕の脳味噌の中でなにかが屈折して、「この人の顔の皮膚をゴムに変えて、 ヒビを入れよう」みたいなオリジナル演出を無意識にやってしまったのだと思います。

 それにしても、ショックです。
 子ども時代の自分が、これほどまでにオリジナリティのない人間だったとは。
 リメイクするにしたって、なんかもうちょっと、こう、独自の工夫をしてみようとか、そういうことを考えなかったんでしょうか? もしも夢にも「著作権侵害」が適用されるなら、円谷プロに訴訟を起こされて瞬殺ですよ、こんなの。

 大切な幼児期の思い出が、水の泡のように消えてしまいました。
 子どものころの夢の話なんて、あんまり他人にするものじゃないな、と思った次第。


(2010.1.8)



そうっ! まさにこれ! こ、このマネキン乱立の光景……。


 
こ、この、電動ロボット玩具の集団にも見覚えが……。


そうそう、こういうの出てきた。闇のなかの戦車隊……。


これ、これ。これが恐いの。不気味なお人形さんたち……。


うわっ! い、いや、ちょっと、待って……。


ひえ〜っ! あ、あ、あ、あの人たちだぁ〜っ!!!!!


本当はこんなに美しい小林夕岐子さん。ニセブロンド似合いまくり! 物語では「実はアンドロイド」という設定。


第9話「アンドロイド0指令」収録DVD



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