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昭和のプラモデル その1 アリイ

 「買う→キレ る→壊す→また買う」



*関連トピック:「ロボダッチ」 「アトランジャー」





  「ロボダッチ」の項にも書きましたが、僕はプラモデルづくりが苦手な子どもでした。部品がうまく組めなかったり、説明書が理解できなかったりして、どうし ても完成できず、長い長い格闘の末に結局は「キレる」という状態になって、「できない! できない! できないっ!!」と叫んでキットを床に叩きつけ、足 でめちゃめちゃに踏み潰したりしていました。

 そのくせ、性懲りもなく近所の模型屋に入りびたり(僕が育った渋谷区恵比寿には「ミスタークラフト」という非常に有名な模型専門店があったんです)、お こづかい日になると性懲りもなくまたもやプラモを買いこんでくるんだからタチが悪いとしか言えません。「やたら買う→キレて壊す」が僕のプラモライフだっ たんです。その不毛なプラモライフは、たぶん中学2年生のとき、ブームにのってガンプラをつくりまくった時期を最後に終了したと記憶しています(ガンプラ ではさすがにキレることはありませんでしたけど)。以降、プラモにはいっさい手を出していません。

 が、ここ数年、なぜか「30年ぶりにプラモつくりたい病」がときどき発症するようになっていて、その原因を自分で分析してみると、やっぱり「懐かしい気 分にひたりたい」ってのが半分、もう半分は子ども時代のリベンジというか、あのころはうまく完成できなくてキレまくったけど、今ならもっとちゃんとできる はず、みたいな意識が働いていたような気がします。

 で、先日、目黒を歩いていたら昔ながらのステキな模型店を偶然に発見してしまい、フラッと入ると、懐かしの「アリイ」ブランドのキットが目に飛び込んで きたので、思わず二つの箱を手にとって、セメダインやら塗料やら一式ととも購入してしまいました。

 アリイというのは1960年代に創業したプラモメーカーで、僕ら世代にとっては、なんというか、いい言い方をすれば味わいのある「駄菓子屋プラモ」、悪 い言い方をすればパチモンぎみの三流プラモを量産していた会社です。よくわからん正体不明ロボットとか、エリマキトカゲなどの動物、扇風機などの変プラ (変なプラモデル)が記憶に残っていますが、ま、当時はそういうメーカーは多かったんですよね。後にマイクロエースと社名を変更し、鉄道模型を主体とした メーカーになったようです。ただ、一部の商品に「アリイ」ロゴを残しているようで、っていうか、単に昔のパケをそのまま使っているようで、今も「アリイ」 ブランドの商品は多数でまわっています。ちなみに、箱だけじゃなく、金型も大昔のものを使いつづけていて、さらに廃業したメーカーの古い金型を引きとり、 それをそのまま使って自社商品をつくったりもしているようです。「そのまま」ってのがポリシーなんですかね? これを「いい加減な製作体制」と見る向きも ありますけど、僕のような人間にとっては、子ども時代の古き良き……っていうか、「古き悪しきプラモ」を今も提供しているという意味で、本当に素晴らしい 会社です。いや、これは冗談ではなく。

 で、僕が購入したのは、「オーナーズクラブ」という1/32の自動車模型のシリーズ。シリーズとしては比較的新しいもののようで、「レトロ」をテーマに したラインナップを特徴としています。オート三輪とか、スバル360とか、60年代のフェアレディとか、ま、「三丁目の夕日」的な感じ。ただ、金型はやっ ぱり古いものを使っているらしく(今はなきLSというメーカーの金型を使用していたりします)、よくはわかりませんが、70年代ごろの商品を「レトロ」と いうテーマで新たにくくりなおして再販している、という感じらしい。僕はそのなかからワーゲンのビートル、そしてやっぱりスーパーカー世代らしくポルシェ 911を選びました。

 30年ぶりのプラモ……。やっぱり懐かしいです。部品がランナーにくっついているのを眺めるだけで懐かしい。それに、セメダインのあの香り(ただ、最近 のプラモは接着剤不要のモノが多いせいか、それとも単なる経費削減か、接着剤を使用するキットにも「セメダインは別にお買い求め下さい」となっています。 仕方がなく、昔ながらのタミヤの四角いビンのヤツを買いました)。また、香りと言えば、カラースプレーをシューっとやったあとのひどい匂い。子どものこ ろ、よく頭が痛くなった記憶がありますが、こんなにひどいシンナー臭がしてたのかと改めて認識しました。

 定価600円なりのプラモなので、構造も単純。説明書をざっと眺めると、組み立て時間は15分もあれば終わっちゃいそう。小学生時代の僕、こんなものに 手こずってキレたりしてたんだなぁ、なんて少し頬江間氏い気分になりつつ、製作をはじめました。
 が、15分後、忘れかけていた「あの気分」を生々しく思い出してきました。「あの気分」、つまり「できない! できない! できないっ!!」の気分で す。できないんです。僕が悪いんじゃない。キットが悪いんです。だって、穴があいているべき場所に穴がない。突起があるべき場所に突起がない。部品の形状 が説明書と全く違う。説明書に載っている部品が存在しない。もう、めちゃめちゃなんです。そう、この気分。こっちはちゃんとやろうとしてるのに、できない ようになっているという不条理な事態に対するやり場のない怒り……。そうそう、昔のプラモってこうだったよな、懐かしいなぁ! という気分にはさすがにな れず、気がつくと「なんだこりゃ、なめてんのか、ケンカ売ってんのかよ、この野郎」とひとりごとを言っていました。この状態、小学生時代とまったく同じ。

 ただ、床にぶん投げて足でふみつぶす、というところまではいきませんでした。そこは大人です。なんとかごまかしごまかしつくっていったんですが、しか し、まぁ、あきれるほどひどいです、このキット。鯛焼きを買うと、はみでた生地があちこちにくっついてるのをよく目にしますが、まさにあの状態。プラス チックがちゃんと成形されずに、グニャとかグチャとかいう状態のままかたまってるんです。なんかいびつな形の変な部品があるなぁと目を凝らすと、グニャっ としたプラスチックの塊の中央にバックミラーらしきものが埋もれてたりして。鯛焼きのはみでた生地はパリパリでおいしいんですが、プラモの場合は怒りしか 湧いてきません。さらに、完成しても部品があまります。まったく使用しない謎の部品がたくさんついて、説明書をよく見ると「○番〜○番までは不要部品」な どと表示されています。これ、たぶんいろんなキットのパーツを流用して組み合わせてるからこういうことになるんだと思います。なんともはや……。単なる消 費者としては「ふざけんな、てめぇ!」なんですが、懐かしもの好きとしては「確かに昭和のプラモって、こんなもんだったよなぁ」というのもあって、なにも かも正確で厳密な規格でつくられた商品ばかりに囲まれていると、こういういい加減さが懐かしいなって思う自分もいたりして、まぁ、複雑な気分になっちゃい ますね。

 結局、ヤスリを駆使して力技でパーツを成形したりしながら、それでもだめな部分はあきらめてゴマカシに徹しつつ、なんとかワーゲンとポルシェを完成させ ました。
 で、結局のところ、やっぱり僕は「アリイ」(いや、今はマイクロエースなんですが)が好きです。こういうメーカーには、消えてほしくないし、こういう 「別にいいじゃん、どうせプラモなんて遊びなんだからさ」的なプラモにも消えてほしくないと思う。クレームの電話をかけちゃったりする人はいっぱいいるん だろうけど、僕ら世代は、こういう「怪しさ」たっぷりの商品に囲まれながら子ども時代を過ごしてきました。「怪しさ」のない世界って、とても住みずらい し、かなり気持ち悪いと思っちゃうんです。
(2011.5.22)

僕らの子ども時代の「そのへんを走ってた車たち」が続々…。クオリティも低いが価格も低いっ!





なんかちょっと洗練 されちゃってるアリイ「オーナーズクラブ」ポルシェ911Sの外箱。やっぱり昔みたいに前面に箱絵がベタっと展開するデザインのほうがアガりますよね


こちらはフォルクス ワーゲン。コレクションしやすさを重視した1/32というサイズ設定はなかなかイイです。ちょうど手のひらに乗っかる感じ。


ポルシェの中 身。う〜ん、昔ながら。ステキな安っぽさが炸裂しております


ポルシェ911S完 成図。ワイパーとかルームミラーとか、取りつけるための穴がちゃんとあいてなかったりするあたりがアリイの醍醐味


こちらはワーゲン。 すでに飽き飽きしており、ペイントがかなりザツになっております。ボディの赤も地色にクリアをスプレーしただけ…(笑)


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