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『公式長編記録映画 日本万国博』の衝撃

「極上のドラッグムービー」




 僕は1967年生まれなので、大阪万博に関するリ アルタイムの記憶はまったくといっていいほどありません。当時、父親が見にいって「どのパビリオンも混んでいたから、ガラガラのところだけを選んで見学し た。全部つまんなかった」(そりゃそうだろう)と言っていたのを覚えているくらい。

  その後、仕事の関係上、いろいろなメディアで大阪万博を懐古するような映像や文章に触れるようになりましたが、特に思い入れを抱いたこともありませんでし た。というか、なにかの媒体で昭和特集をやるってことになると、すぐに「大阪万博!」、もしくは「東京オリンピック!」となるのがすごくイヤで、むしろこ ういう大ネタに対しては冷淡だったんです。

 が! 先日、ひょんなことから『公式長編記録映画 日本万国博』というDVDを入手し、「3時間もあるのかよ、タルイなぁ」なんて思いつつ見はじめたんですけど……

 大脳がとろけるかと思うほどにブッ飛んだ作品で、自分が「万博に間に合わなかった世代」であることの悔しさに、今さらながら地団駄を踏んでしまいました。

 とにかくスゴイです、この映画。
 こ のスゴさって、絶対に言葉じゃ説明できないと思うんですが、まず、本当にスゴイのは映画じゃなくて万博っていうイベントそのもの。いや、スケールのデカさ はさすがに僕も知っていました。でもこれ、絵で見ると心臓を吐き出しそうになります。国家規模の「イマジネーションの暴力」というか、国民総出でイッ ちゃってるというか、「なんでここまでやっちゃうんだ?」という感じ。
 広 大なエリアに空想の、しかも「本物」の巨大未来都市を出現させるパワーの凄まじさにはもちろん圧倒されますが、規模のデカさばかりでなく、建造物の細部に いたるまで、徹底的にイマジネティブなデザインが施されていることにクラクラ。当時の日本人が「未来」というものから思い描く無数のイメージを、脳から直 接取り出して具現化しちゃったみたい。っていうか、これ、ホントに現実なの? CGじゃなくて? と疑いたくなる。想像力の素晴らしさ、というより、恐さ に近い迫力が会場全体に漲ってる。

  また、会場内の人々も、主催者側・客側どちらも「冷静に狂ってる」という感じ。それは別に「一丸となってる」とかっていうことではなくて、この驚くべき祝 祭の雰囲気を特に驚かずに自然に受け入れて、楽しんだり、興奮したり、ときに退屈したりしながら、でも、なんとなくみんなが少し浮き足立っている……とい う不思議なマッド感。「非日常のなかで日常を送っている群集」とでもいえばいいのか……。

  そしてこのイベントを逐一、ユニークな方法で記録していく映画自体がまたストレンジ。70年代のドキュメンタリー映画の独特の手法、つまり妙にシュールな 見せ方をしたり、前衛的な演出をしたりっていうのは、オールド邦画ファンならおなじみだと思います。当時はNHKのドキュメンタリー番組でさえ、バリバリ にアートな画像にガチガチの現代音楽をのっけるのが常套手段でした。にしても、この映画はブッ壊れてます。

  ときに教育映画風、ときにやけにシニカル、そして、なぜか突如、意味不明の寸劇風になったりする変なナレーション。説明的なガイダンス的映像と、ほとんど 映像コラージュに近い画面を脈絡なく交差させていく構成。音楽も絶品で、いかにも70年代の「文部省推奨」的なハツラツとした交響曲から、心底不安を掻き 立てる不協和音全開のコンテンポラリーミュージックまで、時代の匂いがムンムン。

  そしてなんといっても驚かされるのが、この作品の全体の印象が、未来への「希望」と終末への「絶望」が渾然一体となっている……ってところ。70年代のド 頭なのに、すでにしてかなりニューエイジなんです。「国家事業」の「記録」であるはずの本作品に、よくここまでのキワドさが許されたなぁ、と心底驚愕。
 も うこれ、70年代の日本人は日常的にアバンギャルドな表現に慣れ親しんでいたから……ってことでしか説明できない。いや、ホント、70年代の表現や文化、 アートやデザインに関する感覚ってスゲエな……ってつくづく思いました。アンダーグラウンドが完全にメインストリームになっちゃってるっていうか、トン がったサブカルチャーが普通に国民一般レベルで共有されてる。

 もうひとつビックリしたこと。僕が子ども時代に見たアレもコレも、ぜんぶ万博の影響下にあるものばかりじゃないかっ!
 70年代の特撮ドラマ、SF映画、ファッション、玩具などなど、僕ら世代の子ども時代を象徴するポップカルチャーの多くについて、「あ、ネタ元はこれだったのか」というモノが目白押し。無意識のうちに、自分が大阪万博の影響をモロに受けていたことに驚かされます。

 見終わった後、ほとんど茫然自失となりながらも、なんかこういう印象の映画ってほかにあったよなぁ……とつらつ ら思い出してみました。サブカル畑では昔から悪名(?)高い『ゴジラVSヘドラ』。あれに近いな。あの作品も鑑賞中に発狂しそうになりましたが、あのクレ イジー濃度を100倍くらい高くした感じ……。

  昭和好きな人にはもちろんマスト。「70'sカルチャーってマジにシャレになんないッ!」が堪能できると思います。でも、いわゆるトンデモ映画オタクの人 にも見てほしい。僕もモンドでハレンチで「人間やめますか」な映画はかなり見ているほうだと思いますが、「今、僕が目にしているこの映像は幻覚なんじゃな いか? これって僕の脳のなかの映像なんじゃないか?」って本気で不安になった作品ははじめてです。

 おそらく、リアルタイムで万博を知っている世代は「は? なんでそんなにショックを受けてんの?」と涼しい顔で言うでしょう。だから、その万博世代の「涼しさ」がコワイって言ってるのっ!

 ホント、イってる、70年代って。万博には間に合わなかったけど、あの時代に幼少期を過ごすことができて、やっぱりとってもよかったって思う。

(2009.12.3)

↓むぅ〜、現在は残念ながら廃盤。中古はプレミアついちゃってます…

*1971年公開。監督は谷口千吉


ご存知「太陽の塔」と、それを見上げるコンパニオンたち。レトロフューチャーなユニフォームがキュート!


空想未来都市、出現。ミニチュアやCGじゃないんですよ、これ。

70年代特撮ドラマの1シーン……ではありません。万博会場のコントロールセンター。科学少年の血が騒ぎそうっ!


閉会式のシーンとエンディング。最後は小学生の作文で終わるんですが、なんかすっごくシュールな大団円。ストレンジな感動が味わえます。


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