ピンクやペパーミントグリーンのウエハスでカステラをサンドした菓子パン、同世代なら子どものころに一度は食べたことがあると思います。
80年代くらいはまでは菓子パンとしてそれなりの位置にあった商品で、いろいろなメーカーが販売していました。
メーカーによって「ウエハスサンド」とか「カステラサンド」とか「ウエハスケーキ」とか、呼び名はいろいろあったと思いますが、とにかく子ども時代の僕はあの種の商品が好きでした。
メリッというウエハスの歯ごたえ、フワッというカステラの弾力感、そしてムワッとしたバタークリームの風味、これら3種の食感変化が「ひと噛み」で味わえるのが醍醐味だったと思います。
80年代なかば以降はあまり見かけなくなってしまいましたが、現在もいくつかのメーカーが製造を続けています。
拙著『まだある。おやつ編』では、「パスコ」ブランド、つまり敷島製パンの「ウエハースケーキ」を紹介しました。メジャーメーカーが昔ながらの菓子パンをつくりつづけているのは本当にウレシイしいんですが、この「ウエハースケーキ」、「色」がないんです。つまり、ウエハスが白い……
メーカーに聞いてみると、80年代から消費者の意識が変わったようで、「色つき商品」はさっぱり売れなくなった、とのこと。現在はこの「ナチュラルカラー」のものしか製造していないらしい。実際、東京で流通している各社の同種の商品を調べてみると、やはりどれも「色なし」です。
やむを得ず、という感じで「色なし」を『まだある。』に掲載しましたが、撮影用のサンプルを試食してみて、やはり「なんか違う」感じがするのは否めません。
いや、昔のものに比べて上品な味わいで(かつての商品はバタークリームの「ムワッ!」が強すぎて胸やけしちゃうことも多かった)、充分においしいし、例の「メリッ→フワッ→ムワッ」の食感も堪能できるんですけど、「ああ! これこれ!」と記憶が刺激されるまではいかないんですよね。
と思っていたところ、『まだある。』読者のN・Nさん(山口県在住)が「こちらではリョーユーパンというメーカーがまだ『色つき』をつくっています」と教えてくれて、なんとウレシイことに現物を送ってくれました。
届いたのは、「カステラサンド」という商品。
この色! まさにこれです! 試食してみたところ、見事に「ああ! これこれ!」でした。
人間の味覚の曖昧さというか、複雑さというか、不思議さを痛感しましたね。
リョーユーの「カステラサンド」もパスコの「ウエハースケーキ」も、実は味の部分でたいした違いはない。でも、明らかに違うんです、「色」の影響によって。
思い出の味も、色が違うとズレるんですね。「メリッ→フワッ→ムワッ」の食感と味わいは、この蛍光ピンクとパステルグリーンがあってこそ、記憶のなかのデータとパチン!と合致する、パズルのピースがピッタリ合うみたいに。
駄菓子などは特にそうですが、僕たちが食べものを食べるときって、かなりの比重で「色」を味わっているんだなぁ……ってことにあらためて気づきました。
で、さらにN・Nさんが教えてくれたところによると、山崎製パンなども「色つき」を製造しているらしい。ヤマザキは、っていうか、なぜか大手のパンメーカーって、カタログ非掲載の商品をいっぱい持っていて、一部の商品は一部の地域でしか流通させてない、みたいなことが多々あるんです。調べてみると、確かにヤマザキはメインで流通させている「色なし」のほかに、数種の「色つき」を「ウエハースサンド」の商品名で販売していました。都心よりも下町方面の方が発見率が高いようです。
添加物に対する消費者の「意識が高くなった」とされる80年代、お菓子やジュース類からどんどん「色」が失われていきました。もちろん当然のなりゆきだったと思います。幼少期に怪しいほどカラフルなものばかりをバクバク食べて育った僕ら世代の「懐かしさ」は、そこで「おいてけぼり」をくってしまうわけですが。
以前、日本ケロッグを取材したときに広報の方から聞かされた話を思い出しました。
僕が大好きだった今はなきケロッグ「フルーツポン」の最大のウリは、トロピカルカラーのカラフルなパフでした。やはりこれも80年代以降、「色」のせいで売れなくなってしまい、終売に追いやられます。が、実は「フルーツポン」は着色料いっさい不使用。色はすべてフルーツから抽出していたそうです。それをいくらパッケージで主張しても、売り上げは回復しなかったそうです。
とにかく「『色つき』=危険」。それが80年代の消費者の「意識の高さ」だったようです。
(2009.12.28) |