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地球ゴマ(タイガー商会)

 「ニセモノにご注意ください!


1921年に発売され、70年代に大ブームを巻き起こしたタイガー商会の「地球ゴマ」が、今年(2015年)3月、ついに製造終了する…… というショッキングな情報をいただきました。
この傑作科学玩具の歴史については、2011年に「日産アベマグ」に取材記事を書いていますので、下記に転載しておきます。
ご参考までに……。

朗報:「地球ゴマ」、2016年春に進化して復活予定!
(2015.11.28)
  「地球ゴマ」製造終了後、タイガー紹介のご担当者から連絡をいただきました。「地球ゴマはやむなく生産終了となりましたが、このままでは国産ジャイロゴマ が廃れてしまうため、何とかして地球ゴマのスピリットを継承し復活させるべく、このたび新会社を設立する運びとなりました」とのこと!
 「地球ゴ マ」絶滅のニュースを受け、50件ほどの会社から引き継ぎの申し出があり、ある町工場に製造委託することになったそうです。新会社設立と同時にその町工場 と共同プロジェクトを立ち上げ、地球ゴマを進化させた「次世代ジャイロ」の来春発売を目指す……ということで鋭意準備中!
 新会社「タイガージャイロスコープ株式会社」は2015年10(ジャ)月16(イロ)日に始動したそうです。
 まだ商品に関する詳細は未定ですが、続報が入り次第、お知らせいたします!


「ワルイニセモノ 粗悪な類似品にご注意ください」
を呼びかける大ブーム時のポスター





♪コ〜マを回して遊びましょ〜
  唱歌『お正月』で「♪お正月には〜凧揚げて〜」と歌われているとおり、僕の子ども時代には東京でも新年の青空には凧がつきものだった。といっても、その多 くがいかにも「日本のお正月」らしい伝統的な和凧ではなく、1974年にアメリカから上陸し、一大ブームとなった「ゲイラカイト」(*1)。子どもたちの 間でスタレかけていた凧揚げ遊びは「ゲイラブーム」によって救われ、再び「スポーツカイト」という新しいお正月の遊びとして、以降約10年間にわたって復 権することができたのである。
 一方、同じく『お正月』で「♪コ〜マを回して遊びましょ〜」と歌われているコマの方はどうかというと、こちらは残 念ながら、すでに70年代っ子の間でも「昔のオモチャ=民芸玩具」という感じだったと思う(*2)。ベーゴマなどにも親しまなかった僕ら世代は、みんなで コマ回しに夢中になった、なんて記憶はほとんどない……と考えて、ハッと思い出した。いやいや、僕らの時代にもあったゾ、コマ回しブーム。UFOのような 摩訶不思議な動きをする「地球ゴマ」が、70年代のなかばに突如巻き起こした大ブームだ。


キング・オブ・謎玩具
 70 年代は変な時代で、「シーモンキー」(*3)、「モーラー」(*4)、「スライム」(*5)などなど、いまひとつ実体がよくわからない謎めいたオモチャ が、これまた不可解で謎めいたテレビCMをきっかけに社会現象ともいえる大ブームを巻き起こす、ということが周期的に起こった。
 「地球ゴマ」 ブームのきっかけも、やはり70年代に放映された謎めいたCMだ。「世界中のお友だちが遊んでる」というキャッチコピーとともに映し出される近未来的な フォルムの「未知の物体」。従来のコマとは似ても似つかない宇宙ステーションのような金属製オブジェが、細いヒモの上で綱渡りをしたり、ペン先の上で回転 したり、さらには二段重ねの状態で危ういバランスを維持しながら回り続けたりしていた。その重力を無視したようなアクションはまるで「特撮映像」。CMを 見るたびに「これ、どういうシカケになってるんだろ?」と首を傾げたのを覚えている。
 70年代の「謎玩具」はほとんどの場合、実際に購入して遊 んでみると、そのシカケはびっくりするほどたわいない。「なぁ〜んだ」とシラけてしまうことも多かったのだが、「地球ゴマ」はまったく違っていた。自分の 手で回して、その動きを間近で眺めてみても、やっぱり「これ、どういうシカケになってるんだろ?」と首を傾げてしまう。70年代に誕生した数ある「謎玩 具」のなかでも、「地球ゴマ」は最後まで謎が解けない「キング・オブ・謎玩具」だったのだ……というのが当時の僕たちの印象なのだが、実はこの「地球ゴ マ」、ブームを巻き起こした70年代に発売された「新商品」ではなかったのである。
 最初の発売は、なんと1921年。大正生まれのオモチャなの だ。僕らが初めてCMを目にした時点で、すでに半世紀を超えるほどのロングセラー商品だったことになる。「発明」したのは、当時、時計メーカーの責任者 だった加藤朝次郎氏。独特の形状は時計の部品からヒントを得て考案されたものらしい。この画期的な新商品を売り出すため、加藤氏は独立してタイガー商会を 創設。以降、同社は現在まで「地球ゴマ」一筋90年! 
 発売当初は主に輸出品として海外で販売されたが、国内でも散発的な流行が起こり、昭和 30年代にもブームが起こっている(*6)。が、なんといっても空前の大ブームとなったのはやはり70年代。職人さんが総出で年間数十万個を製造しても品 切れの店が相次ぎ、会社の前には早朝から問屋さんの長い行列ができたそうだ。


パチモノが続々登場
  「地球ゴマ」は「ジャイロスコープの原理」、つまり「回転体は外部からの力が加わらない限り回転軸の向きを一定不変に保つ」という法則に基づいた科学玩具 である。これを実現するためには各パーツにかなりの精度が要求されるため、大量生産は不可能。特殊な技術を持った専門の職人さんたちが手作りで仕上げてい く。この製造工程の詳細は「極秘事項」となっており、創業以来、タイガー商会はいっさい製造現場を公開していない。
 工芸品のようなプロセスでつ くられる商品なので、当然、発売当初からオモチャとしてはかなり高額だった。ブーム時の70年代でも、確か「超合金」(*7)一体とさして変わらない値段 だったと思う。その上、大ヒットで品薄が続いたため、「欲しいけど買えない!」という子どもたちが続出することとなる。となると、粗悪な類似品、いわゆる 「パチモノ」の出番である。
 なにかがヒットすると即座にコピー商品が横行する、というのは80年代までの玩具市場ではあたりまえの光景だった が、「地球ゴマ」ほど好き勝手にコピーされまくった商品はほかにないような気がする。「サーカスゴマ」「太陽ゴマ」「衛星ゴマ」「地球独楽」などなど、ま ぎらわしい名前の類似品が駄菓子屋や縁日の屋台などに大量に出まわった。どれも価格は数百円ほどなのだが、見た目はそっくりなのだ(*8)。
 パ チモノ「地球ゴマ」のなかでも最も有名なのが、というか最も悪質なのが、当時の駄菓子屋で必ず売られていた「宇宙ゴマ」という商品。「地球ゴマ」世代の僕 らにはおなじみのパチモノだった、というより、あまりに定番商品だったため、いまだに「宇宙ゴマ」の方が本物だと信じている同世代人も少なくない。
 ブーム時、ガチャガチャのネタとして売られたパチモノのミニミニ「地球ゴマ」も子どもたちの間に普及していたが、学校の休み時間などにこれで遊んでいる子は、必ず「本物」を所有しているヤツらにバカにされた。
「バカだなぁ。そんなガチャガチャのコマなんてインチキだよ。ほら、これが本物だゾ」
 そうやって自慢気に見せられるのは、たいてい「宇宙ゴマ」なのである。


ブームの収束と現在
  当然ながらパチモノ「地球ゴマ」のデキは悪く、CMで見たようなアクロバティックなアクションなどはとてもできないシロモノばかり。そのため、屋台の実演 販売などでは、まず本物の「地球ゴマ」でパフォーマンスをして人を集め、実際に販売するのは「宇宙ゴマ」、なんていう詐欺まがいの商法までが横行してい た。本家のタイガー商会はCMや広告でしきりに「ニセモノにご注意ください」と警告し続けたが、インチキなコピー商品の増加に歯止めをかけることはでき ず、逆に精度の低いパチモノがあまりに普及したため、本物とパチモノの区別のつかない人たちの間で「『地球ゴマ』はおもしろくない」といった評判が定着し てしまったそうだ。結局、わざわざ評価を落とすくらいならと、タイガー商会はCMの放映を取りやめ、メディアへの広告も控えるようになる。こうして、アツ かった「地球ゴマ」ブームは静かに収束していったのである。
 以降、同社は特に宣伝もしないまま黙々と「地球ゴマ」をつくり続けているわけだが、 全国からの発注は途切れることなく、現在も年間数万個を生産している。子どもの頃に遊んだ僕ら世代が懐かしさから購入するケースも多いようだが、「科学玩 具」という性質が再評価され、教育機関や各地のサイエンスクラブからの発注が相次いでいるそうだ。

 この原稿を書くにあたって、僕も久し ぶりに「地球ゴマ」を購入してみた。本体もパッケージも解説書も「あの頃」とまったく変わっていないのがうれしいが、さらに変わっていないのは実際に回し てみたときの「驚き」だ。大人になった今では「ジャイロスコープの原理」を頭ではそれなりに理解しているつもりなのだが、「地球ゴマ」を回したとたんに目 の前に無重力空間が現出したかのようなこの感じ、やはり小学生時代と同じように、「これ、どういうシカケになってるんだろ?」と首を傾げてしまう。

(2015.1.30/2011.12の取材記事を転載)



【注釈】

1 ゲイラカイト
日本ではAGがライセンス販売した米国生まれの洋風凧(現在では株式会社あおぞらが販売)。斬新なデザインと揚げやすさで大ヒットを記録し、従来の「奴凧」などの伝統的な和凧が日本の空からほぼ駆逐された。

2 70年代のコマ
「地球ゴマ」以外では、米国マテル社が70年代初頭に発売した「ホットトップ」というコマが日本でもヒットしている。回転軸を床などにこすりつけて加速させるユニークなコマだった。ブームとまではならなかったが、CMも放映され、一部の子どもたちには人気だった。

4 シーモンキー
1971年にテンヨーがライセンス販売した「不思議な生物」。小さな甲殻類「アルテミア」をペット用に改良したもの。

5 モーラー
1975年に増田屋コーポレーションが発売したオモチャ。モールでできたヘビのようなもので、「生きているように動く!」というCMで話題を呼んだ。実際は細い釣り糸によって手動で操作する。

5 スライム
1978年にツクダオリジナルがラインセンス販売したゲル状の「謎の物体」。どうやって遊べばいいのかわからないようなオモチャだったが、シュールなCMによって大ヒットを記録した。

6 昭和30年代の「地球ゴマ」ブーム
記録によれば、発売当初のエポック社の「野球盤」と同時期にブームになったとされているので、おそらく1958年ごろのこと。この時期にもモノクロ版のテレビCMが放映されている。

7 超合金
1974年にポピー(現・バンダイ)から発売された金属製のロボットフィギュア。第1号の「マジンガーZ」によってブームが起こり、当時の男の子たちが誕生日やクリスマスに買ってもらう玩具の定番となった。

8 「地球ゴマ」の類似品
パチモノ「地球ゴマ」は恐ろしいことに現在もしぶとく売られている。駄菓子屋や100均ショップで販売される「スペーストップ」などが有名。


    本体はもちろん、ケースなども70年代から変わらないデザイン。
A〜Eまで、5種類の大きさが販売されている。写真は一番大きいAタイプ。



付属の専用スタンドの上で回転する「地球ゴマ」。
中央の円盤が高速で回転することによって「地球ゴマ」特有のジャイロ効果が生まれる。





付属の解説書に書かれた遊び方例。
ジャイロ効果の安定感により、指先やボールペンなどのペン先、
コップのフチ、細い糸の上などでも回すことができる。



姉妹品として販売された「競馬ゴマ」



「地球ゴマ教材セットカタログ」。ジャイロ効果を学習する教材として、
さまざまなパーツが付属したセット商品も売られていた。


地球ゴマ タイガー商会 Aタイプ 1個
価格:17800円(税込、送料別)



地球 ゴマ
価格:16800円(税込、送料無料)





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