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超能力ブーム

「“とりあえず信じてみる”ごっこ」




 スプーン曲げっ! 同世代男子なら、絶対に一度は試してみ たことがあるははず。

 試してどうなったか?……というのは、子どもの性質によって大きく二つに分か れるんですよね。

 たいていの子は「ああ、やっぱダメか……」と虚しく溜息を つく。このタイプは将来、ちゃんとリッパな大人になれると思います。

 これに対し、「な、な、なんか、ほんのちょっとだけ曲がっ たような気がする!」なんていう子。
 あるいは「曲がらないけど、なんかスプーンがすっごく熱くなってる!」とか言う子(そりゃ、こすりまくってるんだから当然、熱くなるわな)。
 さらには、「こすり作業」中にグイッと力を入れて曲げちゃう子。いや、インチキをするならまだマットウなんですけど、自分で力を入れておいて、そのこと にまったく無意識で、「うわっ! 曲がった、曲がった!」と本気で驚いたりしてる子。

 こういう子たちって、つまり文字どおりの「夢見がち」体質 なんですよね。
 常に「なんか変わったことが起きないかなぁ」なんてことを欲しているので、「不思議っぽいもの」に接するとすぐに信じちゃう。いや、信じちゃうってのと も違うんだけど、「あるわけないじゃん」ってことをちゃんと意識しつつも、でも「こうだったらいいなぁ」という荒唐無稽な想像力に勝てない。で、そっちに 「もってかれ」ちゃう。いつも「おもしろさ」を「現実」に優先しちゃう……。

 こういう子たちの現在の姿が危ぶまれます。ちなみに僕は、「な、な、なんかほんのちょっと だけ曲がったような気がする!」のタイプでした。現在が危ぶまれています。

 超能力ブームの元年は1974年、つまり、かのユリ・ゲラーの来日が起爆剤に なったといわれています。が、「超能力少年」である『バビル2世』の『少年チャンピオン』連載スタートが1971年、アニメ化が1973年なので、ユリ・ ゲラー以前にかなりのブームが日本でも起こっていたようです。「♪サイコキネシ〜ス、テレバシ〜」なんて歌を普通に子どもがうたっていたわけだからね。
 そう、超能力って言葉が普及する以前は、「念力」って言い方が一般的でした。東京12チャンネルの「マンガキッドボックス」だか「まんがの国」だかで やっていたアニメ版「ミクロの決死圏」では、インド人みたいなキャラが「念力〜っ」って言いながらサイコキネシスを発揮してたなぁ。

 ユリ・ゲラーものの特番では、彼が視聴者に「念を送る」っ てのが定番の企画。壊れた時計だとかをテレビの前の視聴者に用意してもらって、ブラウン管の向こうからユリ・ゲラーが念じて動かすってやつ。
 小学校低学年のころ、僕も一度だけこれをやったことがあります。母親におじいちゃんの古い腕時計を引っぱりだしてもらって、止まったままの時計を握りし めながらユリ・ゲラーと一緒に念じてみる。

 で、動いたんです、止まっていた時計が、急にカチコチと!
 「うわ〜っ」と大喜びして親に見せびらかして、翌日は友達にも言いふらしました。母親は「まぁ、すごいわねぇ」なんて驚いたふりをしていたんだけど、内 心はどう思っていたんだろうなぁ?


 僕自身、「うわ〜っ」と興奮しつつも、頭のどこかで「なんかのはずみで動きだ すこともあるよな」みたいなことを考えていて、でも、それは考えなかったことにする、っていう感じ。
 おもしろがれるキッカケが目の前にあるなら、それがどんなにちっぽけなものでも、「のっかる」ほうがイイ……というのが子ども的には正しいんですよね。

 オウム事件以降、この種のネタを多くのメディアが自粛しま した。「信じやすい子どもたち」に悪影響を与えると。

 だけど当時、超常現象に夢中になっていた多くの子どもたちは、「とりあえず信 じてみるごっこ」をしていただけだと思う。たとえメディアがトンデモ情報を流さなくなっても、そういう子はなにか別のネタを見つけて「とりあえず信じてみ るごっこ」を楽しみつづけているんだと思う。
 「夢見がち少年少女」に幸あれ。


(2009.12.17)

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