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フィンガー5

「どこにもない『学園』への憧れ」





 僕が生まれて初めて好きになった「アーティスト」は、たぶんフィンガー5だったと思います。
 彼らのデビューは1972年。「個人授業」で知名度を上げたのが73年。当時、僕は6歳。「個人授業」の7インチはリアルタイムで買ってもらった世代です。

 当時、フィンガー5はキャーキャーと歓声をあげるお姉さんたちだけでなく、小さな子供たちにも大人気でした。自分たちとさして年の変わらない子供(ブレイク時、アキラ君は12歳、タエコちゃんは11歳)がグループのフロントマンとして大活躍している、というところに、園児及び小学生はある種のスリルを感じていたのだと思います。

 さらに、まだ未体験の「学園生活」なるものへの憧れを掻き立てる歌詞。
 幼稚園年長組、もしくはピカピカの1年生だった僕らは、まだ遠い先の未来にある「学園生活」(中学校生活とか高校生活ではなく、あくまで「学園生活」)を、「個人授業」「学園天国」「恋のアメリカンフットボール」「恋のダイアル6700」などなど、彼らの大ヒット曲を通じて夢見たわけです。

 つまり、「『イケナイ人ね』と言って、いつもこの頭をなでる」セクシーな先生に密かに憧れたり、「このクラスで一番の美人の隣」の席を番長やガリ勉と競ったり、「今度のゲームで勝ったらくちづけあげる」と「あの娘」と約束して「吹き抜けてゆく熱い風」にタッチダウンを決めたり、「明日は卒業式だから」と「指のふるえをおさえつつ」「君のテレフォンナンバー」をまわして「ハロー! ダーリン!」とささやかれたり……

 70年代のアメリカ産青春ドラマにしかないような場面の数々を、つまりは「どこにもない学園生活」を、「幼児」である僕たちは漠然と信じることができたのだと思います。

 で、現在。
 僕らはとっくの昔にいわゆる「学校生活」と「学園生活」ってすっごく違うんだなぁ……ってことを思い知らされているわけですが、それでもファインガー5の楽曲を聴くとワクワクしちゃいます。幼児の頃に抱いた荒唐無稽な「ありもしない学園生活」への憧れが、今もキラキラ輝いている感じで。

 それに、やっぱりサウンドがアグレッシブ。今の耳で聴くと、当時は知るよしもなかった彼らの戦略とセンスがビシビシ伝わってくる。
 デビュー前に米軍基地のライブで鍛えまくった「バンド」としてのキャリアを持つ彼らの音は、当時の日本の歌謡界では(いえ、今の日本のポップシーンと比べても)考えられないほど極端に洋楽寄り。コンセプトは「ジャクソン5のパクリ」だったそうですが、むしろモロなモータウン・クローンですね。特に初期の作品は、日本産「フリーソウル」と呼べるようなサウンドが目白押し。ロネッツなどをネタにして、ほとんどサンプリングに近い感覚で作品を仕上げてる。
 聴きなおしてみると、これだけ過激にマニアックなことをやって、よくあれだけキチンと売れたなぁ、ってことに驚いてしまいます。

 繊細かつ大胆なネタ元のセレクト、国内のシーンを考慮しない、あまりにコアなサウンドとアレンジ、どこか遠い国の日常を歌う夢見がちでコミカルな歌詞、それでいてマニア向けのものにならず、ちゃんとポップ、ちゃんとキュート、で、ちゃんと売れた。
 こういう希有なバンドが確かほかにもあったよなぁ……とツラツラ考えてみたんですが、あ、そうだ、フリッパーズ・ギターだ。


(2009.2.13)


CD&DVD THE BEST::フィンガー5



全盛期、「ドールバナナ」のラベルを送ると当たった「フィンガー5ゆび人形セット」(上)と「アキラ&タエコのフィンガードールセット」(下)。指人形の方は僕も持ってたなぁ……。


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