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フィンガーポップス

「悲しき玩具」





 70年代の玩具やお菓子の市場では、現在では絶対に通用しないような「子供だまし」がまかり通っていました。駄玩具・駄菓子の多くが「子供だまし」なのはあたりまえ。こっちもそれを理解した上で購入していたんですが、名の通ったメジャーメーカーの商品にも、「いや、それはナシだよ」と言いたくなるようなモノがいっぱいありましたよね。
 どんな「子供だまし」をつかまされても、とにかくなんとか工夫して活用する、というのが昭和の子どもたちの姿勢でしたが、それでも「いかんともしがたい」商品がいくつかあります。

 まっさきに頭に浮かぶ「いかんともしがたい」系商品が、1979年にツクダオリジナルから発売された「フィンガーポップス」。

 最初にその存在を知ったのはテレビCM。悪質なことに、これは『ルパン三世』のキャラクター商品として発売され、CMにもルパンたちが登場していました。
 ルパン一味と銭型警部が、なにやらカラフルなマシュマロみたいなものをパン!パン!と飛ばしながら、銃撃戦(?)を繰り広げている。口や耳にマシュマロ状の物体を撃ち込まれた銭型がトホホ……となっているシーンを覚えています。で、「『フィンガーポップス』、新発売!」みたいなナレーションが重なる。

 「な、な、なんだろう、あれ?」と、興味津々になったことは言うまでもありません。はやる気持ちを抑えつつ「おこづかい日」を待ちわび、早速おもちゃ屋に出かけて購入。たしか380円とか、その程度の手ごろな値段だったと思います。

 で、実物を見てガク然。「ただのスポンジの切れっぱし」が1ダースほど入っているだけ。家電などを梱包する際の緩衝材のようなものです。「ようなもの」じゃない、緩衝材そのもの。

 当然、「こんなものがパン!と飛ぶのか?」と思うわけですが、まぁ、「飛ぶことは飛ぶ」。「スポンジの切れっぱし」を指でつまみ、ギュッと力を入れれば弾力によってパン!とはじけ飛ぶ。これを「飛ぶ」と称するのなら、確かに「飛ぶ」。
 つまり、どんなものでも、ゴムの塊でも、フランスパンのちぎったやつでも、段ボールの小さく折ったやつでも、弾力のあるものを指ではじけば「飛ぶ」、という意味において「飛ぶ」わけです。なんの工夫も、仕掛けもない。あくまでも正々堂々とした「子どもだまし」だったんですね。

 さらに悲しいことに、「ただのスポンジの切れっぱし」を『ルパン三世』のキャラクター商品としてでっち上げるため、ルパンの「転写シール」(ガムのおまけについてる「こすって貼るシール」)が同梱されていました。パッケージには「これをスポンジに貼れ」との説明があります。貼ってはみましたが、言うまでもなく、転写シールはスポンジには不向き。まして指でつまんでグニャリと曲げるので、シールはすぐにボロボロと粉状にはがれおちてしまいます。ルパンや不二子のシールがハゲハゲの状態でこびりついた「スポンジの切れっぱし」ほど、悲しい物体はないと思います。

 二、三年ほど前、このトラウマになるほどの「悲しき玩具」と、トイザらスにて再会しました。
 輸入品です。商品名も「Finger Pops」。ルパンのキャラを冠してはいませんが、商品自体はまったくと言っていいほど同じものです。ツクダオリジナルは海外の珍妙玩具「スライム」などの輸入販売を得意としていたメーカーなので、当時の「フィンガーポップス」ももともと海外製の玩具だったのかも知れません。


 発見直後、これを自分の本で紹介したいとトイザらスに取材依頼してみました。回答は「詳しい情報がないし、当社も今後、輸入販売を終了する可能性が高い。なにも答えられない」とのことでした。しごく賢明な判断だと思います。

(2009.2.10)














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