ガチャガチャ! 僕ら世代は、もうこの言葉の響き
だけで心が踊ってしまうのです。逆に「ガシャポン!」などと言われると一気にテンションが下がりまくり、「ああ、この人は信頼できない人だ。資本主義の犬
だ。自由経済主義者だ。どっかで戦争が起こっても、それによって自分が所有している株の株価が上がれば“わーい!”なんて手をたたいて喜んでしまう冷酷で
利己的な人間なんだ」などと思ってしまうのです。
ガチャガチャというのはご存知のとおり、駄菓子屋や文具店などの店頭に設置されるトイベンダー、つまりチープな玩具の自動販売機の俗称です。 ガシャポンというのも機能的にはほぼ同じものですが、こちらはバンダイが所有する列記とした登録商標。 で、ガチャガチャとガシャポンは、ほぼ同じ機構を持つ機械でありながら、その「感じ」には天国と地獄ほどの差異があります。
ガシャポンの内部に詰め込まれているオモチャは、言うまでもないことですが、各種版権をきっちりとクリアしたキャラクター商品など、あらゆる面で「合法」
な商品であり、特に海洋堂ブーム以降は玩具としてのクオリティも極めて高く、ボンクラなガキどもより、むしろハイティーンから大人を対象にしたコレクタブ
ルなアイテムが大半を占めています。
一方、ガチャガチャには、特に全盛期である70年代当時のガチャガチャには、常識的に見て「子どもだまし」と断罪せざるを得ない極めて低クオリティなオモチャが詰め込まれ、しかもなかには、いろんな意味で「非合法」な商品が多数含まれていました。 「非合法」というのは、たとえば「ロッヂ」という架空ブランドを冠した「偽ビックリマンシール」で解体に追い込まれたコスモス社などのケースが有名ですが、要するにガチャガチャの玩具は大半が「著作権侵害」商品だったわけです。
僕の小学生時代のスタンダードなガチャガチャは1回20円で、一時代を築いた「スーパーカー消しゴム」をはじめとして、キャラクター商品、アイドル関連商
品(アイドルを模した消しゴムや、あたり引換券でもらえるアイドル下敷き)、その時々にヒットしている玩具のコピー商品など、さまざまなアイテムが販売さ
れていました。これらの商品には当然、「権利者」(自動車メーカー、芸能事務所、オリジナルを販売する玩具メーカーなど)が存在しているわけで、そのブラ
ンドや固有名称を使用して商売をする際は、「権利者」の承諾を得る必要があるわけです。 が、当時のガチャガチャ業界では、「んなもん、必要ねぇ! 怒られたら中身を変えちまえばいいんだ、バカ野郎!」という豪快な常識、いや、非常識がまかり通っていたようです。
しかもですよ、ガチャガチャの「非合法」性は単なる「著作権侵害」の枠をはるかにはみ出る要素もあったんです。 えーと、以下に記載するお話は、事件の当事者から僕が直接お伺いしたお話なんですが、ちょっと詳細をボカさざるを得ないので非常にわかりにくい文章になります……。
70
年代初頭、某文具メーカーが某商品の景品に「あるモノ」を付けるキャンペーンを実施しました。CMも打ち、「あるモノ」はめちゃめちゃ話題になりまして、
特に大人たちの間で大ブームになったんです。ちょっと話が曖昧すぎるので、ほんの少しだけ具体的な情報を追記しますと、その「あるモノ」はボールのように
「丸いモノ」です! で、それは某商品を「12本セット」で購入するともらえました! あーっ、もうこれがギリギリです! 同世代だとここでピン!と来る
はずです! これ以上は具体的な情報は出せませんっ!
で、そのブーム直後、なんと「あるモノ」を詰め込んだガチャガチャが街にあふれま
した。何者かが実物を入手し、それをもとに金型をつくって製造したニセモノです。しかも、堂々と「あるモノ」の固有名称をうたっているばかりでなく、某文
具メーカーが文具店に配布したキャンペーン告知パンフレットが、そのままカラー複写され、ガチャガチャのウインドウに掲載されていたそうです。
怒った文具メーカーの担当者は、ガチャガチャ業者の事務所を突き止めて、直談判に走りました。「ふざけるな! これは犯罪だ! 即刻、あのガチャガチャを
撤去しろ! さもないと告訴するぞ!」と、ごくごく当然の権利を主張しに行ったわけです。が、相手は、その、なんというか、そういう「当然の権利」の存在
しない世界に生きる人たちでして、俗に「そのスジの人たち」なんていう言われ方をされるようなタイプだったようです。 「犯罪? 告訴? 裁判?
上等じゃねぇか、やってみろよ、この野郎!」ということになって、あろうことか、文具メーカーの担当者は半日にわたってガチャガチャ業者の事務所に「監
禁」されてしまいました。「もうどうでもいいから家に帰してください」と泣きを入れるまで解放してもらえなかったそうです。その担当者は「本当に殺されて
海に沈められるかと思った」と真顔で語っていました。聞いてるこっちまでが背中に冷や汗をかいてしまいました。 これって、もはや「著作権侵害」がどうのというレベルではなくて、完全に即実刑喰らう「犯罪」ですよねぇ……。
まぁ、これは極端な例だとしても、70年代のガチャガチャには、火薬類、刃物、盗聴器(これ、今でもあるけど)など、「危険」がいっぱい詰まっていました。
個人的に鮮烈に記憶しているのは、当時、電子ライターを使ってアーケードゲームのコンピューターを誤作動させ、タダでゲームをやっちゃうっていうのが
「ツッパリ」の間で流行ったんですよね。するとすかさず、電子ライターを参考にした「ゲームをタダにしちゃうマシーン」を販売するガチャガチャが続々と現
れたんです。さすがに「これを使えばタダでゲームができる!」とは明記されておらず、「友達を感電させちゃうびっくりオモチャ!」みたないな触れ込みに
なってましたが(しかし、「感電玩具」もそうとうにヤバイよな)、そんなことを真に受けるガキはいません。そこは暗黙の了解で、みんなそれを購入して文字
通りの「ゲームセンターあらし」と化していました(あ、僕はやってませんよ。ホントですよ。「ツッパリ」の溜まり場だったゲーセンは苦手でしたから)。
ことほどさように、当時のガチャガチャには「犯罪」の匂いが濃厚に漂っていたわけです。それに比べると、本当に現在のガシャポンは信じがたいほど「マットウ」で「健全」な市場を形成しています。よかった、よかった。あー、よかった!
ただ、あの頃を振り返ると、先述した某文具メーカーの担当者さんは本当にお気の毒だとは思いますけど、「夢のようだったなぁ……」とウットリしちゃうんですよね。
「金返せ!」的な子どもだましと、アンダーグラウンド感ムンムンの怪しい玩具で、まさに「法律の網の目」をくぐるさまざまな「工夫」をしながら商売し続け
た「悪い大人」たちのみなさん、僕ら世代は、アンタらのおかげで、法治国家内部ではあり得ないほどの「楽しさ」と「スリル」と「失望」を味わうことができ
ました。しかも、たった20円の単価で! ありがとうございました! この国に、あんなにメチャメチャな時代は、もう二度と訪れることはないでしょう。その時代の空気を吸って育った僕ら世代は、今の子どもたちよりも幾分は「自由!」だったと思います。
(2012.11.6)
| 昨今のガチャガチャにも、我々世代が親しんだオモチャと同じようなモノが……っていうか、まったく同じもモノが詰め込まれています。 |
| | このお店、渋谷区広尾某所、僕が通った小学校近くにある「食品店」。お菓子屋兼雑貨屋さんみたいなお店で、そのたたずまいは30年前と少しも変わってません。 |
| | これこそガシャポンではなく、正真正銘のガチャガチャ! 現在は1回100になってますね。 |
| | で、注目はコレ! 「ポッピンアイ」です。形状も名称もあのころのまま(笑)。「ワオー」と驚くお兄さん&お姉さんのイラストもキテます。 |
| | こ
れが「ポッピンアイ」。同世代なら一度は遊んだことがあるはず。要するに、半分にカットしたゴムボール。床に置いてペコリと凹ませると、ゴムがもとの形状
に戻る勢いでポーンと飛び跳ねる……というだけのモノ。3回やると飽きます。でも、しばらくするとなぜかまた買っちゃうんですよね(笑)。 |
| | さ
らに注目はコレ! 77年の「スライム」ブーム時から販売される「スライミー」。「名称をちょっと変えておきました」的パターンの典型です。これは集めま
くったなぁ。いろんな色のヤツを混ぜて不気味なカラー「スライミー」を製造したりしてました。現在、当時はなかった夜光タイプ、ブラックタイプもあるよう
です。 |
| | 水色の「スライミー」が出てきました。ブラックがほしかったなぁ。僕らの時代の20円タイプより量が多いし、バケツの形状も凝ってますね。でも、「スライム」系オモチャの魅力はこの匂い! 怪しげなケミカル臭は少女に時をかけさせたラベンダーの香りのように魅力的です! |
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