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*本稿は流用です。文体が他ページとだいぶ違っちゃってます
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現在はゲームメーカーとして世界中で高い知名度を誇る任天 堂。だが、「ファミリーコンピュータ」発売以前の同社は、「なにやらケッタイなオモチャばかりをつくる不思議な玩具メーカー」というイメージだった。「ス ライム」や「ミスターX」などで一部の「変わり者」の子どもたちに熱烈に支持されたメーカー、往年のツクダオリジナルにイメージが近いかも知れない。 七〇年代の任天堂の代表的商品といえば、家庭用ピッチング マシン「ウルトラマシン」、手動ロボットハンドのような「ウルトラハンド」、障害物の向こう側をのぞける「ウルトラスコープ」など、発明品じみたニッチな オモチャばかり。平日の夕方、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)の子ども番組枠で、やたらと放映された同社の不思議玩具CMが頭に刷り込まれている 人も多いだろう。 任天堂がB級(?)玩具メーカーから超一流のゲームメー
カーに転身する契機となったのは、もちろん八三年に発売された「ファミリーコンピュータ」。だが、その数年前にも、同社は社会現象とされるほどにヒットし
た伝説のゲーム機を発売している。それが僕ら世代にはもはや説明不要の元祖・携帯ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」だ(一般的には「&」を省略して「ゲームウ
オッチ」と呼ばれていた)。 開発のきっかけは、任天堂の名開発者として知られている横 井軍平氏が、通勤電車の中で電卓で遊んでいるビジネスマンを目撃したことだという。そのため、当初は子ども用でなく、あくまで「大人の暇つぶし」をテーマ に商品開発が進められた。名刺サイズにこだわったのも、ワイシャツの胸ポケットに入れても違和感がないようにするためだったそうだ。また、「遊ばないとき にはデジタル時計になりますよ」というコンセプトも、「一応は実用品でもある」という部分で忙しいビジネスマンたちに関心を持ってもらうための配慮だった らしい。初期のCMも、若いビジネスマンが電車の中で楽しんでいるという内容だった。 が、発売してみると、まっさきに飛びついたのは小中学生た
ち。またたくまに子どもたちの間に普及し、学校に持ち込んで先生に没収される子が続出したり、修学旅行や遠足に「ゲーム&ウオッチ」を持っていくのは是か
非か?なんてことが学級界の議題になったりと、全国各地でさまざまな悲喜劇を生むこととなった。 「スペースインベーダー」によってビデオゲームの洗礼を受
けた当時の子どもたちにとって、「ゲームセンターにあるようなゲームが家でできる!」というのは夢のまた夢。「ゲーム&ウオッチ」は、その夢をかなえてく
れるほぼ唯一の商品だったといえる。当時の家庭用ゲームといえば、基本は「人生ゲーム」のようなボードゲーム。インベーダーブームを受けて「デジタルっぽ
いゲーム」も各社から出はじめていたものの、あまりに高価なテレビゲーム(ブロック崩し程度のもの)のほかは、発光ダイオードとモーターを使用した電動
ゲーム、初期のLSIゲームなどが出まわっている程度で、液晶のアニメーションそのものがとんでもなく新鮮だったし、「未来的!」に思えたのである。 「ゲーム&ウオッチ」発売初年度のタイトルのなかで、僕の
周辺では(おそらくこれは全国共通の傾向だったと思う)「ファイア」が一番人気だった。燃えさかるビルから飛び降りてくる人たちを担架でキャッチするとい
う、いわば人命救助ゲームである。キャッチしそこねると、落下してきた人は地面にパチンと叩きつけられて昇天してしまうのだが、このあたりのちょっとブ
ラックな風味も含めて特に男子の人気が高く、「ゲーム&ウオッチ」=「ファイア」というイメージが強かった。 もちろん僕も「ファイア」が欲しくてお小遣いを貯め(当時
の定価は五八〇〇円。小六にはけっこうキツイ)、ようやく貯まったお金を握りしめて近所のおもちゃ屋へ駆け込んだところ、残念ながら「ファイア」は売り切
れ。二番人気の「バーミン」(もぐらたたき)なども在庫がなく、残っているのはもっとも人気のない「フラッグマン」のみ。これはいわゆる「旗上げゲーム」
で、「赤上げて、白下げて」という古典的な遊びをシミュレートしたものだ。もっとも「アクション感」にとぼしい内容なのである。 帰宅後、さっそくプレイしてみたが、やはり「フラッグ」は
ツマラナイ。やり続ければだんだん面白くなるかも知れないとがんばったが、やはり何度やってもツマラナイ。それでも大枚をはたいて買ったのだからと、ほと
んど意地だけでしつこく遊び続けた。遊ぶたびに「入荷を待って『ファイア』を買えばよかったなぁ…」という後悔が頭をもたげるのだが、それはあえて考えな
いようにして、「これでいいんだっ!」とむりやり自分に言い聞かせながら黙々とプレイしたのを覚えている。僕にとっての「ゲーム&ウオッチ」の思い出は、
遊べば遊ぶほど高まってくる後悔の念との戦いの記憶である。
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