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ミドリ/マルマン「グルービーケース」
「オマエ、まだランドセルなんてしょってんの?」
*関連トピック:アメリカンフットボールブーム アメリカンフットボールブーム その2




 あのころ、「イケてる小学生」には絶対にハズせない最重要ファッションアイテムとされたのが、このグルービーケースです。つっても、ただの「ボール紙の箱」なんですけどね。

 発売はミドリという文具メーカー。1973年に最初のシリーズが市場に出ました。
 当時は「塾通い」と「おけいこごと」が小学生の間に定着し、そのためにランドセルとは別の専用カバンを必要とする子どもが増えた。で、「学校以外」のと ころへ行く場合の子ども用バッグとして開発されたそうです。基本的には昔ながらの「おどうぐばこ」をスタイリッシュにした、という感じ。

 が、このグルービーケースをランドセルの代わりにして登校する子が続出。これによって本格的なブームとなりま す。ブームの初期、「もっともカッチョイイ!」とされたのがジーンズバージョンのグルービーケース。「ボール紙の箱」に薄っぺらいデニムを貼りつけただけ なんですけどね。70年代、デニムって若者カルチャーの象徴だったし、手さげなんかもデニム地が「ナウ」とされてました。

 で! このブームはさらに過熱、というかビッグバン!を起こすんです。
 きっかけとなったのは、元祖のミドリじゃなくてマルマンの商品。そう、NFL(ナショナルフットボールリーグ)のロゴを商品に使える唯一のメーカーだった同社のアメリカンフットボールロゴ仕様のグルービーケースの登場です。発売は1974年。
 もう、これね、当時の男子にとっては本当に「究極のオシャレ」でした。めっちゃめちゃカッコよく見えたもん。これによってアメフトロゴそのものがブームとなって、その他文具、洋服、玩具、インテリア(ペナントとかね)などにまで波及しました。

 当時の小学生のオシャレ男子の一例を描写すると、まずはフットボールシャツを模したトレーナー。ピッツバーグ・ スティーラーズやマイアミ・ドルフィンズのロゴと背番号が入っているヤツを着こんで、ボトムはもちデニム。靴下にもワンポイントでNFLロゴ(当然、ト レーナーのチームに合わせる)。靴はコンバースのハイカット(NFLのシューズもあったかなぁ?)。で、小脇には言うまでもなくNFLグルービーケース。 中にはもちろん、NFLロゴ入りの文具(ルーズリーフやペンケースなどなど)がギッシリと。
 これ、全然大げさじゃなくて、本当にみんなが「歩くNFL」状態だったの。

 なので、僕ら世代の男子でランドセルを6年使ったって子は、少なくとも都内では極端に少ないと思います。
 ちなみに、僕は2年生まででした。2年生でデニムバッグに持ち替え、あとはすぐにグルービーケース。ブーム終了後もランドセルにはもどらず、ショルダー バッグみたいなものを使っていました。親は「せっかくランドセルを買ったのに2年しか使わなかった」とボヤいてましたね。

 ただ、クラスに2、3人、高学年になってもランドセルを使っている男子がいて(女子のランドセル率はもっと高かったけど)、そういう子はかわいそうに、「おい、ガリ勉!」なんて言われたりして。「オマエさ、まだランドセルなんてしょってんのかよ?」とか。

 まあね、ランドセルってやたらと重いし、革は硬いし、背負うと「はがいじめ」にされたみたいな感じになって、小さな子には扱いずらい道具だと思う。デニムの手提げに転向したときは、心底「自由になった!」という開放感を味わいました。


 ただねぇ、今考えると、グルービーケースもめちゃ扱いずらかった(笑)。だって、ただの箱だもん。小脇に抱える以外に持ちようがないし、ただの紙だから すぐにはじっこからボロボロになってくるし。親にもよく言われた、「手がふさがっちゃうから、ランドセルの方が安全よ」なんて。
 こちらの答えはいつも同じ。
「いいの! カッコいいんだから!」
「どこがカッコイイのよ、そんなもの。ただの紙の箱じゃないの」
「いいの! これがカッコイイのっ!」
 永遠に平行線をたどる議論。


(2009.12.24)




これ、『まだある。文具・学校編』に掲載する予定だった現役(2006年当時)グルービーケース。タツノコキャラプリントはカワイイんだけど、とてもじゃないけど持って外出はムリなデザイン。入稿直前に、メーカーから「終売が決まりました」と連絡があって、そのままお蔵入りになっちゃった

マルマンのNFLグルービーケース。やっぱりスティーラーズやドルフィンズなどの人気チームのものは現存率低し。状態のいいまま残されているのは、このグリーンベイ・パッカーズなど、当時の子どもたちに無視されていた地味なチームのものばかり


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