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コーリン鉛筆「ゴールド芯」

「憧れの黄金色」









 1973年前後にコーリン鉛筆から発売された0.5mmシャープ芯の名作「ゴールド芯」。僕ら世代にはいっさい説明不要の逸品です(発売年に関する明確な資料が入手できませんでした。雑誌広告などが大量に打たれたのは73年からですが、実質的な発売年は72年らしい)。
 コレを筆箱に忍ばせておくだけで「おぉ〜っ!」というどよめきとともに野次馬がゾロゾロと机のまわりに集まってきて、その日だけは教室のヒーローになれた……なんていう信じがたいほどアホな状況が70年代なかばの小学校にはあったんです。

  当時、僕は小学校の1年生。それまでは「金属製の高級文具」というイメージだったシャープペンシル市場に、ガンバれば子どもでもなんとか買える安価なプラ スチック製のモノ、カジュアルでカワイイ感じの女児向けのモノなどがポツポツと登場しはじめたころです。もちろん小1のガキだった僕らも物珍しさで飛びつ いて、シャーペンを持つことが一種のステイタスみたいな感じになっていました。「鉛筆なんてもうダサい。使ってるのはガリ勉だけ」という奇妙な価値観が教 室を支配していたのを覚えています。

 で、このシャーペンブームに顔をしかめたのが先生たち。僕らの担任は「シャーペンは子どもの使うものではありません。鉛筆を使わないと字がヘタになってしまうんです」などと、これまた奇妙なことを言いだして、ついに「シャーペン禁止令」が発令されました。
 これに対してウチのクラスの女子たちは団結・決起して猛抗議。「なんでダメなんですかっ! 鉛筆とどこが違うんですかっ! ちゃんと理由を説明してくださいっ!」と教師を糾弾し、その結果「シャーペン禁止令」は3日くらいでウヤムヤになってしまいました。
 男子はそこまでアツく抵抗せず、わりとシラ〜ッと傍観していたと思います。やっぱり当時から女子たちにとって「カワイイ文具」の携帯は、アイデンティティに直接関わる「死活問題」だったようです。

 テレビに「ゴールド芯」のCMが流れはじめたのは、そんな頃でした。
 CM キャラはモノクロで描かれたチャップリンのアニメーション。例のシルクハットにドタ靴というスタイルで、「ゴールド芯」をステッキ代わりにクルクルッと回 しながらステップを踏む……というシブい内容。で、CMの後半には真っ黒な闇を背景に、あの印象的なケースがアップで映し出されます。今見れば「ゴールド 芯」のケースは特になんの変哲もないデザインなんですけど、透明度の高いプラスチック製の角柱の中心を丸くくりぬいた構造は、当時はすごく画期的だったん です。その高級感の漂うクリスタルっぽい感じに、僕らはズキュンとヤラれました。
 そして、キラキラとしたケース内部で輝いているのは、文字通り 黄金色の芯の束! CMでは、かなり大胆な光学処理をほどこして、ちょっと「やりすぎ」なほどゴールド感を強調していたと思います。なにやら宝石みたいだ し、ちょっとメカニックな感じもあるし、とにかく僕らは「わぁ! かっこいい!」と目を丸くしたわけです。
 見た目の高級感にふさわしく、値段も 高額。100円の替え芯が主流の時代に、倍額の200円です。小学校低学年のお小遣いではなかりキツイ。しかも、ほかの文具類とは違って親にねだっても 買ってもらえません。たいていの親は先生同様に「反シャーペン派」なので、「こんなのは子どもが使うモノじゃないのっ!」などと言われてしまうのです。

  こういった状況があったからこそ、「ゴールド芯」は僕らの「憧れ」となり、所有しているヤツはクラスのヒーローとして君臨できたわけです。さらに、周囲の 「下々の者」が「1本ちょうだい!」などとねだると、ヒーローは幼いながらもブルジョア根性(?)を丸出しにして、「タダじゃダメ! 普通の芯3本となら 取りかえてもいいよ」などと言いだし、ウチのクラスでは「ゴールド芯1本=普通の芯3本」という「為替レート」みたいなものが暗黙の内に設定されたりしま した。

 僕も普通の芯を3本出して初めて「ゴールド芯」を手にした「下々の者」の一人だったんですが、初めて実物を見たときは「なんだ、思ったよりも普通じゃん」とちょっとシラけたのを覚えています。
  まず、実物の「ゴールド芯」はCMに比べてゴールド感がない(笑)。CMでは金属的にキラキラと輝いていましたが、実際にはかなり黒ずんじゃってるという か、くすんでる。また、もちろん書き味に違いがあるわけでもない。書いてみても「なんか普通……」という感想しか持てないんです(一応断っておきますが、 「ゴールド芯」は金色の線が引けるわけではありません。顔料は普通の黒色です)。さらに、「手が汚れない」ように「ゴールドコート」を施したとされていま したが、別に普通の芯を使っていて手が汚れて困ったという記憶はないし、「ゴールド芯」だって指先でこすると皮膚に金粉みたいな汚れがつきました。
  それから、確かCMでは「強度が高い!」とアピールされていて、アニメのチャップリンがステッキ代わりの「ゴールド芯」でコツコツと床を叩いて、「ほら、 折れない」みたいな演出をしていたと思います。けど、僕の記憶では「ゴールド芯」ってなんかやたらとポキポキ折れた(笑)。「折れない」ってことでは、強 度実験の映像をCMで流していたぺんてるの「ハイポリマー」の方がずっと優秀だったなぁ。

 とはいえ、やっぱり「ゴールド芯」は歴史に残 る名作だと思います。それはひとえに、ただ単に「金色だったから」。「ゴールド=なんかスゴイ!」という子どもたちの価値観に理屈はありません。金色は金 色だからスゴイんです。普通の芯に、特に意味はないけど金粉をまぶしてみる。文字通り、ただそれだけの付加価値で一点突破したからこそ、「ゴールド芯」は 僕らの記憶に永遠に残る商品となり得たのだと思います。後にも先にも、これほど子どもたちを夢中にさせたシャー芯なんて存在しませんよね。

(2015.2.19)



今見ると、本当になんの変哲もないシャー芯ですが、
当時は「泣く子も黙る!」という威厳が漂っていたんです




1974年の雑誌広告より。まさに僕ら世代は「黄金のトリコになった人たち」だったわけです



ガラスのような透明プラスチックの角柱の中心部に丸い穴が穿たれていて、
そこに金色の芯が格納されていました。この感じがなんともカッコいい……気がしていたんです




非常にわかりにくいんですけど、キャップのトップ部分には
ちゃんとあの不気味なコーリンの「顔」マークのレリーフがあるんです





40年ほど前のデッドストックですが、今もちゃんとゴールド。当時と同じ中途半端な輝きが懐かしい!


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