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拳銃ブームと拳銃図鑑

「凶器」への憧れ








 「拳銃ブーム」といっても、ピストル玩具は昭和男児の基本的アイテムだった ので、60〜80年代を通じて拳銃は常に一定の人気を誇っていたと思います。60年代までは西部劇人気との関連が強かったし、その後の「軍記ブーム」から 80年代までは「ミリタリー」大好き少年たちが一定量存在したので、軍艦・戦車・戦闘機好きの子たちからの人気も得ていました。
 が、ここでは主に70年代の少年たちの「拳銃観」について書いてみたいと思います。

  一説によれば、子どもたちが個々の拳銃のスペックなどについて云々するようになったのは、1969年から『週刊少年キング』で連載が開始されたマンガ『ワイルド 7』(望月三起也)の影響が大きかったようです。これ以前、マンガで描かれる拳銃は「なんとなく拳銃に見えればいいや」みたいなものが多く、『ワイルド 7』に登場する実銃の描き分けは、当時はかなり画期的だったのでしょう。細部の描き込みだけではなく、拳銃豆知識のような薀蓄も作中で語られますし、当時 の子どもたちはみんなシビれたんだと思います。

 が、「ワイルド7」以降に育った僕ら世代にとって、拳銃の洗礼はまずアニメ版の『ルパン三世』に よって受けたんじゃないかなぁ……? 最初に覚えた実銃の名称はたぶん「ワルサーP38」だったような気がする。なにしろEDの歌詞にも読み込まれている ので、強烈に記憶に残りますよね。
 ただ、それ以前にも銀玉鉄砲によって銃の名称を意識するようになっていたような気もする。たとえば多くの銀玉 鉄砲のモデルになっていた「コルト」。当時は園児の間でも流通している名称でした。セキデンの名銃「マジックコルト」とか、なんとなく「コルトガバメン ト」をモチーフにしたような銃が各社から出ていたし、緑色の円盤を発射する銃も「UFOコルト」だったし。
 あと、銀玉鉄砲で人気が高かった「ルガー」。「ルガーP08」っぽい銀玉鉄砲も各社が販売していました。そういえば「ワルサーPPK」風なのも多かったな。こちらは『007』映画の影響で、昭和30年代から人気の銃だったんでしょう。

  そして、拳銃のカッコよさというか、それに対するフェティシズムを僕らに決定的に植えつけのは、なんといっても『ダーティーハリー』! これによって 「44マグナム」の名が全国の昭和男児に知れ渡りました。まさに大型拳銃の代名詞……といっても、「44マグナム」は本来弾薬の名称で、ハリーの銃は「ス ミス&ウェッソンM29」なんですけど、そんなことはどうでもよくて、当時はみんなあれを「44マグナム」って呼んでいました。
 実際の 「M29」は「像狩り」などに使用するために設計されたそうで、そんなもんブラさげた刑事が街中をウロウロしたらたまったものではありませんが、それでも 『西部警察』の大門団長のショットガンよりはマシでした(団長はソードオフしたショットガンで敵の手を撃って銃を弾き落としたり、スコープ付けて遠距 離射撃したりしてましたが、制作陣はショットガンというモノをなんだと思っていたのでしょうか?)。

 『ダーティーハリー』で「44マグ ナム」が注目されると、いろいろな映画、ドラマ、マンガにガシガシと大型拳銃が登場しました。なかでも象徴的なのが、『ドーベルマン刑事』の加納刑事が 持っていた「ブラックホーク」。あの人、いくらなんでも発砲し過ぎでしたね。毎回、最後はだいたい皆殺し。
 あと『ダーティーハリー』の影響をモ ロに受けた国産ドラマといえば、草刈正雄&田中邦衛主演の『華麗なる刑事』。草刈演じる「ロス」というあだ名(ロスアンジェルス市警にいたから)の愛銃が ハリーと同じく「M29」なんですが、ちゃんと足を開いての両手打ちをしていました。日本のドラマでこういう正式な大型拳銃の射撃ポーズを見たのは、これ が初めてだったんじゃないなかぁ? 草刈氏はクランクイン前にアメリカにわたって、実際に「M29」を打つ訓練をしたそうです。

 ことほ どさように70年代なかばあたりは拳銃ブームの全盛期でして、身近な銀玉鉄砲をはじめ、モデルガンや空気銃(当時、エアガンとは呼ばれてなかった)なども 大人気だったんですが、そのころの小学生男子必携とされていたのが各種「拳銃図鑑」類です。ムック形式の大判のものからハードカバーの単行本、新書といろ いろなスタイルのものが出ていましたが、よく読まれていたのがケイブンシャの「コロタン文庫」や秋田の「大全科」シリーズなど、やたらとブ厚い小型の図鑑 でした。まぁ、このあたりはスーパーカーブームのころと変わらないんですが、みんなこういう図鑑をスミからスミまで読んで、アイテムの名称やスペックを暗 記したんですね。

 この種の本は今読んでもなかなかおもしろくて、ものすごく投げやりな編集や、1分くらいで考えたようなメチャメチャな 見出し、さらには完全に間違った情報などが随所に目立つわりに、「なんでそこまでこだわるんだ?」っていうくらいに詳細に掘り下げているトピックもあった りして、なんだかよくわからないバランスの悪さが独特です。

 それにしても、今の子どもたちは拳銃なんぞに興味を示すのでしょうか?…… と思ってちょっと考えてみると、70年代の盛り上がりにはほど遠いものの、やっぱり現在も低年齢用のエアガンなどは一定量出荷されているし、まぁ、こうい う玩具に関して社会の大人たちの目は年々厳しくなっているようですが、それでも好きな子はやっぱり好きなようですね。
 銀玉鉄砲片手に町内を走りまわる野蛮なガキは絶滅しましたが、男の子の「凶器」への意味不明な憧れは健在なようです。米国の銃規制には賛成だし、ライフル協会は頑迷なオヤジの集合体だと思いますが、拳銃玩具規制には大反対です。

(2016.6.7)




典型的な拳銃図鑑、『拳銃大全科』(秋田書店/1980年)と
『世界の拳銃大百科』(KKワールドフォトプレス/1979年)


巻頭カラーにドカン!とワルサーP38


ワルサーPPKを紹介するカラー口絵。
ボンド君とヒトラーの名を並べるのはやめてあげて



こういう「アメリカンポリス」の紹介記事もやたら流行りましたね


ワルサーP38の分解と組み立て。こういう記述にワクワクしちゃう


ワルサーP38の撃ち方。覚えてどうする?


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