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カワイ「肝油ドロップ」
「これは薬なんだからね!」




 小学生時代、夏休みが近くなると、クラスのみんなに一枚のプリントがまわされます。
 「肝油ドロップ」購入名簿。欲しい人は自分の氏名の横に○をつけておきます。すると後日、あの男の子の顔がデカデカとプリントされた黄色い缶が届けられるわけです。

 決まって長期の休み前に販売されたのは、「休暇中の栄養補給に」という意味合いがあったのでしょう。
 「肝油ドロップ」は今でいうところのサプリメント。一種のビタミン剤ですね。発売は、なんと1884年(明治17年!)。1911年に現在のような甘いドロップ状となって一気に普及したそうです。戦後は学校給食に用いられることも多く、僕ら世代でも「ウチの学校、給食に2粒ずつ出たよ」という人もチラホラいます。

 子ども時代、「クジラの脂から作られている」と聞かされていたんですが、実際はタラやサメ、エイの肝臓から抽出した成分が入っていたらしい。どちらにしても、現在の「肝油ドロップ」には魚の脂は使われておらず、ビタミンを調合してつくられているそうです。

 当時、先生にも親にも「これは薬だからね。お菓子じゃないんだからね」と念を押されていました(*1)。家に持ち帰るとすぐに母親に取り上げられ、毎日、3粒だか2粒だか、決まった量だけをわたされるんです。

 子供としては、あのうっすらとメロンのような香りのある甘さが魅力で、いつも「もっと欲しい!」と思っていました(これには個人差があり、「薬くさくて大っきらいだった」という人も多い)。ザラメ(?)の付いた表面のジャリッとした歯ごたえ、さらに内部のニチャッというゼリービンズ的な感触も好きでした。
 親にバレないようにこっそり食べたり、ときには家に持ち帰る前、下校中の道ばたで友人たちと味わいましたが、量が減ると怪しまれるので、思う存分食べるというわけにはいきません。

 小学校低学年のころ、母親から「肝油ドロップ」をもらうと、一粒ずつ、「意外とおいしいですよ」とつぶやきながら食べるのが自分だけのブームになっていました。
 これ、再放送で見た特撮番組『ジャイアントロボ』に出てきた宇宙人のマネ。友好的なフリをしている悪い宇宙人が、地球人に「動けなくなる薬」を「宇宙人の栄養剤」だと偽って食べさせる。その際、悪い宇宙人は「意外とおいしいですよ」と自分で食べてみせるんです。そのしぐさがおもしろくて、「肝油ドロップ」を食べるときには飽きもずに「意外とおいしいですよ」を連発していました。

 数十年ぶりに薬局で「肝油ドロップ」を購入してみました。
 いつか「思う存分食べたい」と思っていた「肝油ドロップ」ですが、2粒でもう充分。あのおいしさは、「これは薬なんだからね。勝手に食べちゃダメよ」と言ってくれる監督者がいてこそのものだったようです。

(2009.2.15)


カワイ肝油ドロップS (100粒)【第(2)類医薬品】




カリッのあとにムギュッという独特の食感。ちょっとメロンに似た不思議な甘さは、夏休みの朝の味なんですよね。ラジオ体操を連想しちゃいます




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(*1)実際、用法・用量を誤って服用すると急性中毒や慢性中毒を引き起こす可能性があるのだそうだ。さらに下痢、腹痛、嘔吐、皮膚のかゆみなどが発症する場合もある。また、「主な効能はとり目・くる病の予防、目の乾燥感の解消」だそうで、思っていたよりもかなり限定的な機能のサプリメントなのである。




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