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『ウルトラセブン』
「ウルトラ警備隊西へ 前編」

 「ホームシッ クとキングジョー」



*関連トピック:「アンドロイド0指令/悪夢〜真夜中のデパー ト」





 小学生 時代の僕は夏休みになるとひとりで祖父母の家に数日間泊まり、近所に住んでいる従兄妹たちとカブトムシを獲ったりして、いかにも夏休みらしい日々を過ごし ていました。毎年、この郊外で過ごす数日間の生活はもちろん大きな楽しみだったんですが、ひとつだけ問題がありました。ホームシックという病いです。

 僕は一人っ子だったためか非常に甘ったれで、小学校の低学年のころまでは、外泊をすると必ず「帰りたいっ! 帰りたいっ!」という発作が起こるんです。
 このホームシックの発作というのは継続的に起こるものではなく、起こるポイントというのがいくつか決まっていました。

 祖父母の家に泊まる場合、最大の発作ポイントとなるのは、車で僕を祖父母の家まで送ってくれた両親が、「じゃあ、帰るわね。おじいちゃんとおばあちゃん の言うことをちゃんと聞くのよ」などと言い残して去っていくときです。
 なんだか「置き去りにされた」というどうしようもない絶望感がわきあがって、かなり激しい発作が毎回のように起こりました。しかし、ホームシックの発作 というのはそれほど持続性ななく、なにか楽しいことをみつけたり、お菓子やジュースを与えられたりするとケロッと治ってしまいます。

 ここをクリアすると、次の発作ポイントは夕方から宵の口にかけて。
 周囲が暗くなってゆく……というのがホームシックという病にとってはあまりよくないようで、それまでキャハハッ!とご機嫌に遊んでいたにもかかわらず、 突如として「家に帰りたい」モードに豹変してしまうのです。この「逢魔が時」発作も、夕飯を食べるころには、なぜかすっかり治ってしまいます。

 大きな発作ポイントは以上の2点で、しかも、どちらも外泊の1日目のみに起こることが多く、この2つの山をクリアしてしまえば「ホームシック」に打ち 勝ったことになるわけです。

 あれは小学校の1年生か2年生くらいのことだと思います。
 その年の夏休みは、最初にして最大の発作ポイント、つまり「両親が帰っていく」というシチュエーションを見事に乗り越えることができました。多少は心細 くなりましたが、「泣かないぞっ!」と自分に言い聞かせ、男の子らしく「峠を越す」という状況に持ち込むことができたのです。

 その後、従兄妹たちと元気に遊び、門限の5時半が来て祖父母の家に帰宅しました。ここからが「逢魔が時」発作ポイントです。
 「なんとか乗り切ろう」という強い決意があったため、従兄妹たちと「じゃあね」と別れるときも、山の方に傾いていくオレンジ色の西日や、迫りくる夕闇の 気配を感じても、「淋しい」という気分にはなりませんでした。いや、なったかも知れませんが、意志の力でふりはらいました。

 祖父母の家に帰ると、祖母は夕飯の支度をしています。
「もうすぐご飯だから、それまでテレビでも見てらっしゃい」
 僕はテレビのスイッチを入れました。ちょうど『ウルトラセブン』の夏休み再放送が始まるところ。僕は「わぁ!」と声をあげて喜びました。大好きな『ウル トラセブン』を見ていれば、あっという間に30分は過ぎてしまいます。そうすれば、そのまま夕食。夕食後に発作が起こることはまずないので、つまり、僕は 初めてホームシックに打ち勝つことができるんだ! 僕は勝ったんだっ! と思ったわけです。

 しかも、『ウルトラセブン』を見続けているうちに、物語のなかに見たことのある不思議な形の飛行物体が登場しました。
「あれ? あの変なモノは、確か合体して『キングジョー』になるんじゃなかったっけ?」
 僕は興奮しました。「キングジョー」は『セブン』の敵のなかでも一番のお気に入りで、大小のソフビ人形も持っています。あぁ、なんて運がいいんだろう!  「キングジョー」が登場する回を見れるなんて! もうホームシックどころじゃないっ!

 幼稚園時代から小学生時代にかけて、僕ら世代は毎年のように再放送で『ウルトラセブン』を見て育ちました。登場する怪獣のほとんどは記憶していますし、 『怪獣図鑑』の影響やソフビ人形の収集により、各怪獣についてかなり細かい部分まで熟知しています。ただ、幼さなゆえなのか、「この怪獣が登場する回はど んなストリーだったか?」については、少なくとも僕はまったく覚えていませんでした。
 大好きな「キングジョー」について、僕は何も見ずに絵を描けるくらいに知っていましたが、それは単に造形を知っているというだけで、物語のなかで「キン グジョー」がどんな活躍をするのか、まったく知らなかった、というか、記憶していなかったのです。

 まず、画面に初めて完成形の「キングジョー」が登場するシーンで、妙な衝撃を受けました。その独特の雰囲気や動き、そして「ヴォ、ヴォ、ヴォ……」とい う声(?)が、非常に不気味だったんです。
「う、動いてる『キングジョー』って、こんなに恐いのか……」
 しかも、やたらめったら強い。「ウルトラセブン」の武器がいっさい通用せず、クライマックスのバトルシーンではまったく「セブン」に勝ち目はなさそ う……。
 いつの間にか、僕は大好きだったはずの「キングジョー」をさしおいて、いつもどおり「セブン」を応援していました。さっさと、その気味の悪い金属のカタ マリを退治しちゃってくれ!

 ところが! 倒されたセブンに「キングジョー」が馬乗りになって、殴り放題みたいなシーンでパッとストップモーションになり、絶望的な不安感を煽りまく る音楽とともに、あろうことか「つづく」になってしまったのです!

「え、ええ、えぇぇぇぇぇ〜っ!!!!」

 「セブン」が負けたまま、番組終了……。
 僕はどうしていいかわからなくなり、自分の内面世界のどこかで、なにかがポキリと折れたような気がしました。とたんに、もういてもたってもいられなくな り、ギャ〜ッ!と泣きわめきました。なんで泣いているのか、なにが悲しいのか、自分でもまったくわかりません。とにかく、「いつもと違う想定外のことが起 こった」ということに、自分の精神がグラグラと大きく揺さぶられたのだと思います。

 祖母が「どうしたの? どうしたの?」と台所から慌てて飛んできました。何が起こったのか理解できないという顔をしている祖母に向かって、僕は泣きなが ら叫び続けました。

「帰りたいっ! 帰りたいっ! 帰りたいっ!」

(2011.11.25)



……というわけで、トラウマになった問題の回を久し ぶりに見てみました。
『ウルトラセブン』第14話  「ウルトラ警備隊西へ 前編」
やっぱりよくできてるなぁ。実相寺監督が担当する回のようなケレン味やダークなタッチは控えめですが、不思議な重さのあるお話に仕上がっています。



物語冒頭に登場する女性科学者ドロシー・アンダーソ ン。実は地球を侵略しにきた「ペダン星人」がなりすましています。ブロンド外人の登場率の多さは「セブン」の大きな特徴でした。


「ペダン星人」の攻撃開始。合体前の「キング ジョー」が大阪の研究所に飛来! シュールな造形がステキ!


「キングジョー」初登場シーン。大阪が舞台ですが、 なんとなく大阪万博にかこつけた設定だったのかも。万国旗がそれっぽいです。


こんなデザイン、どうやって思いつくんだろ? 今見 てもホレボレしちゃいますね。胸のパネルにサイケなネオンがキラキラ輝く感じも70'sです。



これが、この回の最終カット。「ウルトラセブン、危 うし!」というナレーションが入って番組終了です。



蛇足ですが、これ、「後編」の一場面より。「ペダン 星人」と「セブン」(ダン)が夕日のなかで「地球人は好戦的な生物か否か?」で議論を戦わせる場面。
「ペダン星にロケットを向かわせたでしょ? 先に手を出したのは地球人よ」
「違う。あれはただの観測衛星だ」
「はっ! そういえば聞こえはいいわよね。でも、なんのための観測なの? それは、侵略の第一歩でしょ?」
「……」
みたいな感じで「セブン」が論破されちゃうんですよね。ここで一瞬、「宇宙人どうし」の友情が成立する感じ、そして、そこで交わされた和平交渉を「ペダン 星人」が平気で裏切っちゃう感じがとても好きです。



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