初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



キッスvsベイ・シティ・ローラーズ

「『LOVE GUN』で苦行」
*関連トピック:キッスvsベイ・シティ・ローラーズ その2




 ずっと前に、なにかの雑誌のインタビューでcorneliusこと小山田圭吾くんが情けなさそうに言ってました。

「僕、生まれて初めて買ったアルバムってキッスの『LOVE GUN』なんですよぉ〜」

 うわっ、さすが同世代。僕もまったく同じです。

 僕の場合、初めて買ったシングルがフィンガー5なんですが、これはむしろ少しも恥ずかしくない。なんだったら自分を少しホメてあげたいんです、「その選択眼、よし!」と。が、初めて買ったアルバムがキッスってのはキツイです。死ぬまで秘密にしておきたい。

 キッスが流行したのは僕が小1のときから小4くらいまでかな? 初めて意識的に聴いた洋楽、というかロックのひとつ。
 で、これが全国的な傾向かどうかはわからないんですけど、ウチの小学校では男子(といっても洋楽を聴くのはクラスで3、4人)はキッス、女子はベイシティローラーズ、っていう不文律があったんです。

 僕は小1ではじめて両バンドの音を耳にしたんですが、直感的に「ベイシティローラーズ、カッコイイーッ! キッス、ダッサーッ!」と思ったわけです。これはもちろんルックスも含めて。
 その後の自分の音楽遍歴を見ても、ハードロックやヘビメタには徹底して完全不感症、中学時代に60年代のブリティッシュビートバンドのリバイバルで音楽 に目覚めて、高校ではパンクからネオアコへ、特にオレンジジュースやアズティックカメラを排出したスコットランドのポストカードレーベルの音に入れあげる ようになるわけですから、どうしたってキッスよりローラーズです、資質として。

 が! ウチの小学校の状況下では、「ボク、ベイシティローラーズの方がイイと思うナ」なんてことは口が裂けても 言えなかった。「ローラーズなんてオンナ・コドモが聴くもんだっ!」みたいな風潮が男子のなかにあり(自分たちも充分にコドモなんですけど)、ローラーズ 派を宣言することは「スカートを履きたい!」と言うのとのと同じくらいに「倒錯」的行為とされました。

 子どもってマジメですからね、友だちをテキトーにあしらっておいて、家ではこっそりローラーズを聴けばいいよう なものの、そういうのがダメなんですね。「この音に慣れなきゃ」みたいな悲壮な気持ちで、ガマンしてキッスのレコードを部屋で聴き続けたりしたわけです。 いやぁ、ホント、これはツライ経験でした。まさに苦行。

  それから約30年、90年代後半にキッスは若者たちの間でプチ・リバイバルしました。それ自体、一種のギャグ というか、ダサさをキッチュに変換した上でのオシャレアイテム化というか、オモチャ化というか。corneliusがメタルで遊んだ影響も大きいし、ソ フィア・コッポラの「ヴァージン・スーサイズ」にジャケがチラッと出てきたのも印象的で、むしろガーリーな形で消費された……。
 このときに僕も30年ぶりにキッスを聴いてみましたが、非ハード&非メタルな音に驚かされましたね。グランジを通過した直後の耳で聴いたキッスは、もうスッカスカ。しかも激ポップ。ああ、こういう音だったのか……と再認識しました。

 にしても、おもしろいのは70年代の日本の「洋楽地図」のメチャメチャさ加減。
 ネットなんてもちろんないし、洋楽メディア自体がまだ開発途上。まして小学生のことだから、ロックの細分化されたジャンル意識とかバンド間のリレーショ ンとかって混乱しまくってたんですよね。キッスVSディープパープルとか、ローラーズVSモンキーズとかなら話はわかりますが、キッスVSローラーズ (笑)。でも、今聴くと、どちらの音にも明快な歌謡曲感があって、これはこれでそれほど見当違いでもなかったのかな、と思います。こういう構図って、日本 だけのものだったのかな?


(2009.12.23)

キッス(KISS)
1973年結成のアメリカ産バ ンド。このルックスからもおわかりの通り、ハードロックのエンターテインメント化というか、その後のヘビメタの「わかりやすさ」の形成に大きく貢献したこ とは確か。男子に人気だったのが右から2番目のジーン・シモンズ(火を吹いたり、血を吐いたりするので)。女子に人気だったのが左端のポール・スタン レー。

ベイ・シティ・ローラーズ
(Bay City Rollers)
1965 年結成(BCRに改称するのは68年)のスコットランド産バンド。「お国柄」を象徴するタータンチェックのマフラーがトレードマーク。ポップな楽曲で巻き 起こした世界的なブームは「タータン・ハリケーン」などと呼ばれた。中央にいるカワイイ男の子が僕ら世代の女子たちに絶大な人気を誇ったパット・マグリ ン。

BCR好きの男子は少なかったけど、KISSファンの女子はけっこう存在した。小学生ゆえメタル度の高いファッションをする子はさすがに皆無。原宿あたりで買った「KISS Tシャツ」を着るくらいが限界(左図)。
一方、BCRファンの女子はおとなしめ。タータンチェックのマフラーを巻けばOKだったので、「よいこ」イメージを維持したまま「パットLOVE!」を主張できた(右図)。

世界的に大ヒットしたキッスの6thアルバム『LOVE GUN ラヴ・ガン』についていた付録の紙製ピストル。児童雑誌の付録みたいに厚紙を切り抜いて自分で組み立てる。輪ゴムをひっかけて飛ばすことができた。昨今、 再発された紙ジャケCDにも別種の紙製ピストルがオマケについている(こちらに画像を掲載しました)


初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



アクセス解析

inserted by FC2 system