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キッスvsベイ・シティ・ローラーズ その2

「40年の時を隔てて聴こえてくる音」
*関連トピック:キッスvsベイ・シティ・ローラーズ その1




 さて、「男は黙ってキッス、女はキャーキャー叫んでBCR」という70年代小学生文化における洋楽事情はココに書きましたが、最近、この2つのバンドをやたらと聴いております。

 で、特に僕のなかで再評価ブームが起きているのがキッス。小学生時代の僕が「隠れBCR派」だったことは「その1」で告白した通りですが、当時は苦手だったキッスが、今の感覚で聴くと「なるほどなぁ」という感じなんですね。
  音はどう考えてもやっぱり好みじゃなくて、あくまでチープで、いかにも70年代なかばの「三流アメリカンハードロック」的な単調すぎるギターリフとか、そ れにしてはちっともハードでもヘヴィでもない曲調とか、やっぱり笑っちゃう。けど、「完全につまらない」といえる曲がほとんどないというか、どの曲も一定 水準以上に「おもしろい」。笑えるっていうんじゃなくて、まぁ、「カッコいい」んです。で、その「カッコよさ」がものすごく男の子っぽいというか、要する に「ロボットのプラモデル」みたいな「カッコよさ」なんです。これ、やっぱり10歳くらいの昭和男子なら、「うわーっ、かっけー」ってシビレちゃうだろう な、と今さながら思ってしまいますね。
 しかも、その「かっけー」に関してバンドも非常に意識的に、確信犯的にやっているのがよくわかる。「ロ ケットパンチ」を出してほしいと思う、ここぞ!というタイミングで「ロケットパーンチッ!」ってブッ込んでくる。そこは絶対はずさないし、その勘所はもの すごくわきまえてる。特にライブアルバムやライブ映像に触れると、彼らの「表現者」……というより「興行屋」としての真面目さ、真摯さ、ひたむきさがよく わかります。サービス200%。まるでサーカス。ロックの存在意義が「モヤモヤを抱えるティーンエイジャーたちにひとときのファンタジーを与えること」だ とすれば、まさにキッスは「ロックの権化」かも知れない……と思ってしまいます。アーティストであろうとする「自我」すらなく、完全にティーンの幻想に自 らを生贄として捧げている。そこに「商売」を突き抜けた、ある意味では「病的」なショーマンシップを感じてしまう。
 あと、初期ドラマーのピー ター・クリスは本当に素晴らしい。キース・ムーンになりたかったのかも知れないけどぜんぜん足元にも及ばないドラミングは、別にうまくはないけど気持ちい い。そして、なにより彼の声。いかにも「70年代アメリカ」という雰囲気のハスキーな声と歌唱が魅力的です。彼には「ベス」「ハードラック・ウーマン」と いう、キッスのナンバーのなかではきわめて異色なフォーキーな名作がありますが、この2曲だけは小学生のころから好きだったな。
 やはり10歳ごろのことだったと思いますが、家でキッスを聴く僕に顔をしかめていた母親に、「キッスはこういうきれいな曲もやってるよ」などと言いながらラジカセで「ベス」を聞かせたことを思い出しました(笑)。

 そして、BCR。これもやっぱりイイんですよ!
  「あー、おもしろいな」と思っちゃうのは、実はキッスにも言えることですが、やはり時代の色が濃厚に滲み出ていて、強烈にグラムロックの影響を受けた音な んですよね。そのせいで、曲自体はあっけらかんとしたポップスなんですが、ベースのブッとさとか、アレンジのワイルド感で、どこか少しだけ不穏に響く。危 険な、なまめかしい感じがする。まさにグラムな感じ。特にBCRはときおりT-Rexの香りがプンプンします。
 BCRといえば、やっぱり「サタ デーナイト」ですけど、これなんか「お前ら、マジか?」っていうくらいアホな曲(笑)。バカ丸出しのチアリーディング感覚と、ほとんどなにも言ってない、 ただアッパーなだけの歌詞。これがだけど、やっぱりめちゃめちゃ「カッコいい」! なんていうんだろうな、これは僕ら世代が最初の洋楽体験としてBCRを 受け止めてきたから、っていうことを抜きにしても、この曲には思春期の子どもがロックやポップスを聴きはじめたときの初期衝動というか、「good old rock'n'roll」の原初的な真実、爆発しそうなザワザワ感がギュッと詰め込まれているような気がします。それは要するに「青春」……しかも、その 手前で憧れる幻想の「青春」の輝きがあるような気がします。

 音的には、そしてジャンル的にも、キッスとBCRは似ても似つかないバンド ではありますが、今の感覚で聴いてみると、ある同一の感慨を抱かせてくれます。それは、子どもだった僕らがちょっと背伸びをしながら聴いた70年代の洋楽 に特有の時代感。言葉で説明するとミもフタもないんですが、僕らを縛るものたちから逃れる「解放感」であり、心を爆発させる「自由」であり、僕たちの前に はもっともっと素晴らしい前途があるという「希望」であり、未来はきっと今よりも善きものになるという「理想」であり、真実を手にするための「成長」であ り……
 それをひとことで言えば、ロックやポップスには似つかわしくない言葉ですが、「戦後民主主義」ということ、そして、それを無邪気に信じて いられた「幸福感」……ということになるような気がします。それが「懐かしく」感じてしまう「今」という時代って、いったいなんだろう?……などと思って しまうわけです。

(2015.5.27)



思わず買ってしまったキッスのBOXセット。なぜかファーストから3枚目、4枚目、5枚目のアルバムにベストアルバムが1枚……という変な組み合わせの5枚組。なんで2枚目の『地獄の叫び』がないの? でも、すべて音源はリマスターされてて音は超タイト。心地いいです。

こちらは2006年に数量限定で発売された『ラヴ・ガン』紙ジャケ仕様。音は96年 のリマスターが採用されています。これのアナログが、僕が初めて買ったLPでした。このジャケ、明らかにストーンズの「イッツ・オンリー・ロックンロー ル」の影響を受けてますよね。キッスのコンセプトはハードロック版ビートルズだったそうですが、音的にもストーンズの影響がちょこちょこ感じられます。

上記『ラヴ・ガン』のオマケ、アナログ時代の中ジャケの縮小版と、付録についていた 「紙ピストル」の縮小版。小学生時代の僕が「なんだ、これ?」と思った「輪ゴム飛ばし銃」(笑)。日本のレーベルが勝手につけた付録だと思っていたんです が、本国でも同じオマケをつけてたらしいですね。組み立て方の説明が英語ですが、当時の国内盤はここがちゃんと和訳されていたような記憶があります。

こちらはBCRのBOXセット。1〜5枚めまでのアルバムが紙ジャケ使用でまとめら れています。名作とされているのは『DEDICATION』ですが、「サタデーナイト」が入っているデビュー・アルバムがやっぱり好き。ときにT- Rex、ときにキンクスみたいだったりして、なんか不思議なバンドだなぁ……と思います。


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