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「リカちゃんでんわ」とは、タカラの着せ替え人形「リカ ちゃん」をキャラクターに冠したオモチャの電話機……ではありません(そういう商品もあったけど)。 ある電話番号にかけると、ちゃんと「香山リカ」(「リカ ちゃん」のフルネーム)につながり、彼女とひとときのおしゃべり(ごっこ)が楽しめる……という一種のテレフォンサービスです。 サービスの開始は1968年。あるときに小さな女の子が
「リカちゃん、いますか?」とタカラ本社に電話をかけてきたことが企画のヒントとなったそうです(素晴らしい話である)。 小学校低学年のとき、当初は女の子たちの間だけに流布して いた「リカちゃんでんわ」の「秘密の電話番号」が男子たちにも漏洩しました。これによって男の子たちの間にも「リカちゃん電話」がプチブームとなったんで す。 僕も最初はクラスの女子から番号を教えてもらって、面白半 分にかけてみました。 「もしもし、あたし、リカよ。今ね、お友達とお家でパー ティーをしているの」 みたいな感じの「一方通行トーク」。「なーんだ」と思いま した。「こんなのを聞いて、女の子たちはおもしろがってるのか」と。 が、それ以降、なんとなく家で退屈したときなど、親に内緒 で「リカちゃん」に電話をしてみるようになりました。うろ覚えですが、定期的に内容が更新され、なかには「リカちゃんトリオ」の歌が流れたりすることも あったような気がします。 ある日も、いつものように退屈しのぎに「リカちゃん」に電 話をしてみました。 「も しもし、あたし、リカよ。あなたは今、なにしてるの?」 なんだか知らないけど、急にぞわぞわと全身に鳥肌が立っ て、慌てて受話器を置いてしまいました。どういうわけか、恐くなっちゃったんです。 小学生とはいえ、受話器のむこうではテープが回っているだ けだということは知っています。ただ、「この声は、いったいどこから聞こえてくるのだろう?」みたいなことを、ふと考えてしまったのだと思います。なにか こう、電話という道具の本質的な「気味悪さ」みたいなものに、ほんの一瞬だけ触れてしまったんです。 受話器の向こうは決して見えない。たとえ親しい友人と話し ていたとしても、その友人が「本当」に受話器の向こう側にいるかどうかはわからない。電話回線という不可思議なシステムが、どこか別の、自分の知り得ない 遠い「世界」と混線してしまうことがないとは限らないじゃないか??? 「リカちゃん電話」の「恐い感じ」は多くの人が共有してい るようで、後にはこれをネタにしたいくつかの怪談話や都市伝説が子どもたちの間にひろまりました。 電話というものは、人間の感覚とはどかで相容れない非現実
的な「恐い機械」なのだと思います。 「リカちゃん電話」全盛期、タカラは男の向けに「GI ジョー」「変身サイボーグ1号」のテレフォンサービスも展開していました。こちらはやけに派手で、「戦闘指令!」「緊急出動!」みたいな非現実的な内容 だったと思います。「リカちゃん」に感じたような恐怖感はまるでなく、むしろ「のんびり」聞くことができました。 「もしもし、あたし、リカよ……」 このなにげない「リカちゃん」の第一声にこそ、現実と非現
実の「はざま」を見せてしまう不思議な力があったんだと思います。 |
●なにやら不思議なモノが販売されています……
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