僕ら世代は、もの心がついたころからアメコミキャラに触れていました。
ディズニー系はもちろん、毎日のように“東京12チャンネル”で放映されていたハンナ・バーベラ系、また、『スーパーマン』に代表されるヒーローものなども、アニメや実写でひととおり目にしているはずです。
実写の『スーパーマン』はかなりうろ覚えで、自分が実際に見ていたかどうかも定かじゃないんですけど、印象的だったのは『バットマン』。
原作版とも後の映画版ともまったく違っていて、全編スラップスティックなコメディなんですよね。ほとんど「たけちゃんマン」に近いノリ。「バットマン」も「ロビン」も悪役たちも全部間抜けで、なんかちょっと病んでて。もしかしたら映画版にティム・バートンが起用されたとき、旧TV版のノリを多少意識していたのかも知れない……けど、バートンじゃないんですよね、あの感じ。『ダークナイト』でシリアス路線のドンづまりまで行っちゃったので、今後は思い切ってアホな監督使って、アホなコメディ路線に再トライしてもらいたい。
『スパイダーマン』も、70年代前半ごろかな、アニメが放映されていました。確か『おはよう!こどもショー』内のアニメ枠だったような気がする。テーマ曲がちょっとダークなメロで、「おっお〜、クモ人間だぁ〜」という歌詞だったような。このメロの断片がサム・ライミの映画のなかでも一瞬出てきて、とても懐かしかった。
『スパイダーマン』というと、これはたぶん70年代後半くらいだと思うんですが、マテル(だったかなぁ?)が日本でも発売したアクションフィギュアを思い出します。「GIジョー」がコスチュームを着ているようなタイプの人形で、左手にフックつきのヒモが仕込んである。ヒモをジジジと伸ばしてフックをどこかにひっかけると、人形に内蔵された自動巻き取り機が作動して、「スパイダーマン」人形がヒモをつたっていく……というギミックがステキでした。同シリーズに、「スーパーマン」「バットマン」もあったはず。
あれこれ思い出すとキリがないんですけど、ここで紹介したのは1976年に刊行が開始された「光文社マーベルコミックス」。ごん存知マーベルコミックスの名作の数々を翻訳し、国内のコミックスと同じ新書サイズでまとめたマンガ本です。
小さい頃からアメコミに親しんではいたものの、すべてアニメか実写ドラマでしか触れていないわけで、これらは原作をかなり子ども向けにアレンジしてるんですね。
初めて原作コミックに接して、ビックリしました。とにかく大人っぽい。ストーリーや人間関係が複雑。で、主人公のヒーロー・ヒロインたちが、恋とか生活とか仕事とか家族との関係などについて、多かれ少なかれリアルな悩みを抱えている。この感じは、日本のマンガにはないもので、同じマンガでも日本のものとはまったく違うなぁ……と思ったのを覚えています。
同シリーズで刊行されたタイトルは、まずは『スパイダーマン』。
これ、国産特撮ドラマの東映版『スパイダーマン』の放映と刊行時期がカブってて、原作コミック版を読んでた子どもにとっては、あのドラマ版は「なんとかしてくれっ!」って感じでした。原作版では、ガールフレンドのこと、生活費のこと、勉学や仕事とヒーロー活動の両立のこととか、すごく細々したことで主人公が悩みまくる過程がおもしろかった。戦闘の最中にやたらとシャレた軽口を叩いて敵をからかう感じも、いかにもアメリカっぽかったんですけど、こういう部分はもちろん国産特撮ドラマ版からは全部落ちちゃってましたね。
あと、『ファンタスティック4』。
30年後に映画が公開されて日本でも知られるようになりましたが、初めて読んだときはキバツな設定に驚きました。ホームドラマ+ヒーローものって感じの構造で、家族間のごたごたがけっこうリアルに描かれる。4巻まで出て中断しちゃいましたが、4巻の最後で家族の軋轢が極限に達し、このままファミリーは崩壊してしまうのか……みたいなところで終っちゃうんです。続きがとても気になりました。
それから『ミズ・マーベル』。
「ミズ」ってのは、既婚か未婚かで変化する「ミス/ミセス」を「差別的!」とする人たちが考案した新たな敬称。すごくフェミな思想に支えられたヒロインの物語です。といってもギスギスしたイデオロギーが前面にでているわけではなくて、かなりコミカルな作品でした。普段はヤリ手OLの主人公が、いざというときにコスチュームに着替えて戦うんですが、「スパイダーマン」同様、このヒロインも「口の減らない」タイプの女性で、悪役とのシニカルなセリフのやり取りがステキでした。
暗すぎていまいちついていけなかったのが、『シルバーサーファー』。
『ファンタスティック4』からのスピンオフ作品ですね。「さまよえるユダヤ人」のように放浪する「シルバーサーファー」の苦悩の日々って感じで、地球人のために命がけで戦っているのに、理解のない人間たちから迫害されつづける……っていうのはちょっと『妖怪人間ベム』とか『猫目小僧』みたい? とにかく頭を抱えて「あぁ……」とハムレットのように苦悩するシーンが多くて、子どもとしては「お前、悩み過ぎっ!」という感じでした。
また、『キャプテン・アメリカ』も、ちょっとノレなかったなぁ。あまりに「強くて正しいアメリカ」が強調されてる感じで、アメリカ流の「愛国精神」、さらには「戦争賛美」的な匂いもあったりして、子どもながらに「なんだかなぁ」でした。
そのほか、『マイティ・ソー』と『ハルク』も出ていましたが、なぜかこの2作品は読んでないんですね。『マイティ・ソー』は確か神話みたいなお話で、トンカチ持った神様が主人公だっけ? あんまりピンこなかった記憶があるけど、『ハルク』はテレビ版も好きだったはずなのに、なぜか集めなかった。お小遣い的な問題で手を出さなかったのかなぁ。
好き嫌いはそれぞれ作品ごとにありましたが、とにかく全体にクオリティが高くて、当初、「きっと今後はどんどんアメリカ産のマンガが刊行されるようになるんだろうな」なんて思っていたんですが……そうはなりませんでしたね。あんまり売れなかったのかな?
光文社は80年代にアメコミを集めたマンガ雑誌『ポップコーン』を刊行しましたが、そちらもあんまり話題にならず……。
当時のこういう動き、すべて米国文化のエヴァンジェリストであった小野耕世氏の尽力によるもので、この時期、氏と光文社はかなり大がかりに日本におけるアメコミ普及を目論んでいたようです。ちと早すぎた仕掛けだったのかも知れませんね。残念。
ともかく、これだけのアメコミをまとめて日本語で読めた異例な数年間を子どもとして過ごせた僕ら世代って、かなり運がよかったと思います。小野氏に感謝。
(2010.7.25) |