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「お味噌汁にバター」




 あんまり人に言いたくないけど、僕が小学校低学年の70年代なかばくらいまで、我が家では「お味噌汁(*1)にバターを入れる」という野蛮な習慣がありました。

 家族全員が常にバター入り味噌汁を食すわけではありません。「たまに」なんです。ちょっと気分を変えたいとき、っていうか、「今日はなんだかバター気分」みたいなときに、おもむろに「ちょっとバターを落としてみようかな」とかなんとか家族の誰かがつぶやいて、自分のお味噌汁に各自バターを「落とす」んです(この「落とす」というのは我が家では「味噌汁用語」で、半熟卵を味噌汁に入れる際も「卵を入れる」ではなく、「卵を落とす」「落とし卵」などと称していました)。

 いつの間にかこの習慣はなくなりましたが、実際、お味噌汁、特に豆腐と油揚げのお味噌汁にバターをいれたものはおいしいんですよね、あんまり人に言いたくないけど。ただし、ワカメやアサリなど、海の幸を入れたお味噌汁には合いません。

 バター入り味噌汁は我が家だけの恐ろしい風習だと思っていたので、ひた隠しにしていました。が、ある取材で乳製品メーカーの古い資料を漁っているとき、右に掲げた広告を発見したんです。

 「和食にもバターを」のキャッチコピーとともに、明らかに「バターを落としたお味噌汁」の写真が掲載されている! 調べてみると、こういう「運動」(?)は60年代から70年代にかけて、各乳製品メーカー及びお味噌メーカーが行っていたようで、当時の「ニューファミリー」的な家庭に浸透したらしい。つまり、「バター入りお味噌汁」は「時代の風潮」だったわけです!
 おそらくですが、「バターしょう油ご飯」(我が家では「バターのせご飯」と称していました。よそったご飯に穴を開けて、そこにバターを投入、さらに少量の醤油をかける)も、この「和食にバター運動」の影響下にあるものと思われます。

 なんだかちょっと安心しました。お行儀の悪い習慣は我が家固有のものではなく、「時代のせい」だったんです。

(2009.2.11)





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(*1)ちなみに、この原稿で多用した「お味噌汁」という言葉、一般的らしいので使いましたが、個人的にはかなり違和感があります。この言葉を家庭内で使用したことは、実はほとんどなかったはず。我が家では必ず「おつけ」と呼んでいました。もしくは「おみおつけ」。




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