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70'sサブカルの“禁断の書”
「なぜなに学習図鑑」

*関連トピック:『なぜなに学習図鑑』その2




 70年代に幼少期を過ごした多くの男子たちに、「トラウマ」とも言える強烈な影響を与え続けたのが小学館の「なぜなに学習図鑑シリーズ」。

科学に関するアレコレを図解する一種の教育書という体裁なんですが、実体はむしろ教育に悪い衝撃的・鬼畜的な情報 のオンパレード。「もうすぐ氷河期が来るぞ!」とか、「半漁人化したイルカが人間を侵略するぞ!」とか、「ロボットが狂って人を襲うようになるぞ!」とか いった極めてダークな未来観を提示し、いたいけな子どもたちを怯えあがらせました。

 このシリーズに欠かせない毒々しいイラストを描いていたのが、かの未来画・SFイラストの大家・小松崎茂、耽美的エロスとグロテスクの画家・石原豪人です。

 こ こ数年、両名の再評価ブームのあおりを受け、また、現在の「悪しきサブカルチャー」の源流となったシリーズであることが広く認知されてしまったため、「な ぜなに」シリーズの古書市場の価格はやたらと高騰しています。残念ながら、僕の手元にあるのは1974年刊行の『ロボットと未来のくらし』のみ。高校生く らいまではシリーズのほとんどを所有してたんですが、すべて親に捨てられてしまいました。

 30 年ぶりに読み返してみて、このシリーズに共通する妙な未来観にあらためて驚かされます。「人はいずれ宇宙も海底も四次元も征服するだろう」という「万博 的」な明るさと、「もうすぐ地球は滅んで、みんな死ぬだろう」という終末感が平気で同居している感じ……。僕ら世代はこの二つの未来観にドップリ浸かりな がら成長してしまったので、大人になった現在も「なぜなに」の価値観からまったく抜け出せていないような気がします。

 シリーズのなかで、特に僕が好きだったのが『びっくり理科てじな』という1冊。テーブルにのせられたフランケンシュタインの生首がニヤニヤ笑いながらタバコを吸っている……という挿絵があって、幼児期の僕はこれに魅了されちゃいまして、ヒマがあるとジ〜ッと眺めていた覚えがあります。
 あと、ひそひそ声が遠くまで届くようになっている構造の「ささやきの回廊」を図解した挿絵も恐かったなぁ……。
 どれも科学手品の解説イラストなんですけど、なんか不必要に不気味なものばかりで。

 この本、たまぁ〜にオークションに出たりするけど、かなり高価なんですよねぇ。

(2009.11.18)



「明るい未来」その1。「21世紀になっても月には誰も住んでいないよ」ということを当時の自分に教えてあげたら、たぶんかなり驚くと思います


「明るい未来」その2。当時、「現在実験中。もうすぐ実用可能」と言われていたリニアモーターカー。21世紀になった今も「現在実験中。もうすぐ実用可能」と言われています。「もういいよ」という気分です


「暗い未来」その1。なんで急にこういうことになるんでしょう? 本文によると「人間が勝手なことばかりするからです」とのことです

「暗い未来」その2。豪人先生ならではのタッチにワクワクです。工場の排ガスなどが 地球をつつみ、太陽の熱がさえぎられ、「現在、地球は少しずつさむくなってるといわれています」とあります。21世紀に「温暖化」が懸念されるようになる とは、著者は夢にも思っていないようです


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