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「ノザキのコンビーフ」の看板

「“なんとなく”の存在感」




 昔の広告看板には謎めいたものが多いんですけど、これも代表的な一品ですね。その昔、JRの駅付近でやたらと目にした「ノザキのコンビーフ」の看板です。数は減っているようですが、最近でもときおり目撃しますね。

 「と にかく商品名だけを覚えてもらえりゃあいい」というシンプルな発想。「おいしい!」とかのキャッチコピーどころか、連絡先もない。っていうか、メーカー名 の川商フーズすら掲載されていない。とにかく「コンビーフ!」とだけ断言する。言いっぱなしの潔さがいかにも昭和だと思います。

 当時のこういう街貼り看板には、商品名のみが掲載された「だしぬけ」感に満ちたモノが多くて、貼られる場所にも いまいち脈絡がなかったりする。「それをここに貼ってどうすんの?」というか、あくまで「なんとなく」貼った感じ。その「は?」という印象が、風景に「風 情」みたいなものをもたらしてくれていたような気がします。

 今 なら「費用対効果」がどーのってことで広報活動に「なんとなく」は許されないだろうし、看板には必ず社名やキャッチコピーはもちろん、電話番号やURLや QRコードやらがギッシリ掲載され、設置場所もマーケティングリサーチをキッチリやるので、「いかにも」な場所に「いかにも」な看板が集まる。この脈絡あ りまくり感がウザイです。

 それにしても、なんでコンビーフ看板が駅に集中したんでしょう?
 川商フーズの歴史年表によると……


 広 告・宣伝活動においては、高度成長期の1955年頃(昭和30年代)から2000年頃までは、JR(当時の日本国有鉄道)の送電線の鉄塔や首都圏(山手 線・中央線・京浜東北線沿線など)の電柱に365枚の「ノザキのコンビーフ」の看板を大量に設置されました。また、テレビやラジオCMを積極的に実施し、 知名度の向上と幅広い層への認知拡大に成功しています。

 と いうわけで、当時の看板設置場所の代表は町々の「電柱」で(そういえば、昔の電柱って今よりもっと看板だらけだったような記憶がある)、その延長に国鉄の 鉄塔があったんですね。車窓から多くの人が眺めるはずの軌道内の鉄塔は、企業にとってはかなり魅力的な「メディア」だったということらしい。

 すでに設置は終わっているようですから、印象的なコンビーフ看板も今後は数を減らしていくばかり。2000年時点の365枚のうち、何枚ほどが現存してるんでしょう?

(2009.11.15)












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