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小学館『入門百科』シリーズ

「趣味を持つ、ということ」





 このサイトでは、「怪奇系」「サブカル系」の児童書の代表として、小学館の『なぜなに学習百科』を取りあげています。が、もうひとつ、同社の人気児童書シリーズとして忘れてはいけないのが、どの学校の図書室、あるいは学級文庫にも必ず数冊は常備されていた『入門百科』シリーズです。
 『なぜなに』よりも知名度は断然高いでしょう。70年代に小学生時代を過ごした人で、このシリーズに一度も手を出さなかったという元・子どもは皆無と言ってもいいと思います。あの大学帽+メガネ+ひげの「博士マーク」(?)が目に焼きついてる人も多いはず。


 内容的には、シリーズ名にあるとおり、子どものための各種「入門書」シリーズなんですが、とにかく扱うジャンルが膨大。
 釣り、ラジコン、マンガ、手品、マイコンなど、趣味系のハウツーを中心に、各種ペットの飼い方、恐竜や電車、はては円谷系怪獣などを図解した図鑑、スパイや探偵などの「あこがれの非現実系職業」を解説した妄想的入門書、さらにクイズや占い、そしてもちろん超能力、妖怪、UFOなどの超常現象とオカルト系読み物などなど、当時の子どもたちのありとあらゆる好奇心に対応できるような強力なラインナップを誇っていました。
 切手やコイン収集、化石発掘など、ホビーとしてはかなりシブイものまでフォローしていて、多くの子どもにとって「生まれて最初に手にする入門書」だったと思います(同系列の児童書シリーズに学研の『ジュニアチャンピオンコース』というのもあって、こっちと記憶がゴッチャになっている人も多いと思います。『ジュニアチャンピオンコース』は、「世界の七不思議」や「歴史上の珍事件」、さらには「びっくり人間大集合」的な内容を得意としていたシリーズでした)。



 そうそう、姉妹シリーズには『ミニレディ百科シリーズ』というのもあって、こちらはドリーミーな表紙で女の子の好奇心をターゲットにした内容。料理やおしゃれ、「ステキなレディー」になるための各種マナー、星占いやトランプ占いなどの各種恋占い、少女マンガ・イラスト作法など、小生意気かつ夢見がちな小学生女子のハートをガッチリつかんでいました。


 当時の小学生は、なにか新しい趣味をはじめる際に、「まずは入門書を買う」という習性があったように思います。
 「趣味をはじめる」といっても、なにか深い関心や興味に促がされているわけではなくて、「なんかクラスで流行ってるから」とか「友だちのあいつがはじめたから」とか、かなりいい加減な動機である場合がほとんどなんですけど、僕も小学生時代にあれこれと手を出しました。
 当時の子どもたち、特に男子たちの間には、なにかしら「趣味を持つ」ということがちょっとした強迫観念のようになっていたような気もします。「僕の趣味は○○です」とちゃんと言えることで、キャラクターもしくはアイデンティティのようなものがはじめて形成される、みたいな。



 今考えると、どう考えても自分には向かないというか、そもそも最初からまったく興味がないようなものにまで、「流行ってるから」ってだけで片足を突っ込んでいましたね。「将棋」とか、「Nゲージ」とか、「ブルートレインの写真を撮る」とか、「モデルガン収集」とか……。
 で、そのたびに近所の本屋さんに行って、「まずは入門書を買う」わけです。つまり、小学館『入門百科』シリーズをはじめとして、本屋さんにはちゃんと子ども用のハウツー本が大量に用意されていて、どんなにマイナーな趣味についても、少なくとも専用のハウツー本がきちんと見つかる環境があったわけです。



 現在、本屋さんの児童書コーナーを見まわしてみても、子ども向け入門書はかなり少なくなっていますよね。今の子たち、「こういうことをやってみたいなぁ」と思ったとき、どうしてるんだろう? なんて、ちょっと心配になったりもするわけですが、よく考えてみれば、「流行ってるから」なんつってはじめた趣味はたいてい一ヶ月くらいでやめちゃうわけだし、そもそも僕らの時代の子ども向け入門書って、ほとんど実用的な情報なんて皆無のイイ加減なものが多かったんですよね。本の6割以上が「この趣味をはじめるに際しての心構え」みたいな抽象的な記述だったりして。


 なので、結局のところ、子ども向け入門書なんて「いらなかった」っていうミもフタもない結論になるわけですけど、それでも、入門書を買うことで「新しい趣味をはじめた!」みたいな気になれるワクワク感を得られたことと、クオリティはどうあれ、子どもたちの多岐にわたる好奇心をある程度は受け止められる有象無象の本がとにかく存在したってことは、やっぱり幸福なことだったと思います。

(2010.11.23)



『入門百科』シリーズの1冊、『まんが入門』。監修は赤塚不二夫で、解説イラストもすべて不二夫プロのスタッフによるもの。贅沢なツクリの本でした




ちょっと時代を感じさせる作例。こういうのを眺めつつ、使いこなせもしないGペンなどを買い込んだのを覚えてます




ルアーブームのとき、クラスの男子の必携本となっていた1冊。「釣りキチ三平」人気の絶頂時に発売されたものですが、矢口高雄のイラストは表紙にしか使われていませんでした




こういう道具解説にワクワクしちゃうんですよねぇ。たいていの趣味は、その最大の魅力が入門時の道具選びにあったような気がします


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