初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



岡崎友紀

「70年代的“おてんば”の誕生」

*この原稿は過去に「まだある。昭和ナビ」のコンテンツ「昭和スター名鑑」に掲載された記事を改変したものです。





 70年代は、「無口」「無関心」「無気力」といった感じの「アンニュイで退廃的」な女性たちがもてはやされました。タランティーノの影響で再リスペクトされた梶芽衣子(『女囚さそり』シリーズ)とか、寺山修司が脚本を書いた映画『サード』で鮮烈なデビューを飾った森下愛子とか、この時代ならではの「破滅型青春映画」の金字塔『八月の濡れた砂』のテレサ野田などなど、うつろな瞳の物憂い少女たちが時代を飾っていたわけです。この「アンニュイ女子」たちのイメージは、70年代ポップカルチャーの象徴として、21世紀を迎えてからもちょくちょくリバイバルされ、現在もCDジャケットなどに再利用されているのはご存知の通り。

 が、もちろん70年代は「アンニュイ女子」のみが注目された時代ではありません。当時、むしろ彼女たちは日陰の存在。アンダーグラウンドシーンに咲いた徒花でした。一方では、おしゃべりで、あわてもので、人情に厚くて、世話好きで、正義感は強いけど失敗ばかりしている……といった感じのボーイッシュな「三枚目」の女の子たちが大活躍する「『おてんば』の時代」でもあったのです。この「『おてんば』の時代」としての70年代は、「『アンニュイ』の時代」としての70年代の陰にかくれてしまって、今ではあまり注目されないようです。しかし、「本流」はこっち。「おてんば」抜きに70年代は語れない……と思うわけです。

 70年代的「おてんば」スタイルは、従来の良妻賢母的オトメ観(悲劇的な深窓の令嬢とか)に異を唱えた新しいスタイルの少女マンガの世界で生まれ、その後、大きな流れとなって、ドラマや映画、アニメなどに派生し、無数の「おてんば」キャラクターを生み出しました。

 で、なかでも70年代的「おてんば」キャラの象徴、「おてんば」の女神とも呼べる存在が、『おくさまは18歳』の「高木飛鳥」であり、『なんたって18 歳』の「青木まどか」。つまり、大ヒットドラマの「18歳シリーズ」で唯一無二の「おてんば」キャラを確立し、一躍国民的コメディエンヌとなった岡崎友紀なのです。

 岡崎友紀は東京都千代田区出身の女優・歌手。子ども時代から舞台やテレビで活躍し、1968年にNHKの連続ドラマ「あねいもうと」に主演、全国的にその名を知られるようになりました。さらに下記で解説する「18歳シリーズ」で大ブレイク。アイドルとして絶大な人気を得た、というより、後の「女の子観」を変えてしまうほどの大きな価値転倒を我が国にもたらした……といっても過言ではないと思います。

  1970年には歌手としてデビュー。「岡崎友紀」の名で、さらに「おくさまは18歳」の役名「高木飛鳥」のペンネームで、多くの作詞も手がけています。ドカーンというヒット曲があるわけではありませんが、ここ10年ほど、クラブシーンにおける昭和歌謡ブーム、和製ガールポップブームの影響もあって、マニアたちから周期的に再評価され、現在も数々のベスト盤がリリースされています。特に、かの筒美京平大先生の作品が多いこと、なおかつソフトロックタッチの楽曲が多いことで、「渋谷系」以降の若いコレクターたちにも人気を誇っていて、当時モノのアナログにはそれなりのプレミアがついているようです。

 岡崎友紀のイメージを決定づけたのは、1970年にTBS系で放映が開始されたドラマ『おくさまは18歳』。原作は『週刊マーガレット』に1969年から連載された本村三四子の同名少女マンガでした。高校教師と教え子の女生徒の「禁断の結婚生活」を描くという、ともすればかなり深刻・淫靡になり得る設定をスマートなライトコメディに仕立てた作品ですが、テレビドラマではさらにハチャメチャなコメディ感を強調。次から次へと巻き起こるトラブルに、主人公「高木飛鳥(岡崎友紀)」、夫で教師の「高木哲也(石立鉄男)」がコミカルに悪戦苦闘する、という内容。

 『奥さまは魔女』など、アメリカのコメディを意識したスピード感のある会話やギャグ、アドリブ風の演技などの斬新なスタイルは、その後に量産される「ラブコメディ」の定型となり、子どもにも大人にも、女性にも男性にも支持され、最高視聴率33.1%(!)を記録する「お化け番組」となりました。

 続いて制作された「18歳シリーズ」第2作『なんたって18歳!』は、「最低最悪のバスガイド」の異名をとる見習バスガイド「青木まどか(岡崎友紀)」が一人前に成長していく物語。スラップスティック感はさらにエスカレートし、ドラマの途中で突如「まどか」がカメラ目線となり、視聴者にむかってゲラゲラと笑いだしたり、不満やグチをぶちまけたりするヌーヴェルヴァーグ顔負けの「実験的演出」が話題になりました。

  その後も『ママはライバル』『ラブラブ・ライバル』など、一連のシリーズが制作され、ドラマ史に一時代を築きます。

 「きれいなorかわいい女の子(二枚目)」と「おもしろい女の子(三枚目)」ばかりだったフィクションの世界に、「かわいくておもしろい女の子」という第3のキャラクターを確立した、というのが「18歳シリーズ」の大きな功績です。もちろん、それを見事に体現したのが、女優としての岡崎友紀。彼女は、キュートな女の子がひたすら失態を繰り返すストーリーを通じ、従来の「アイドル」なら絶対にやらない極端にデフォルメされた「ズッコケ演技」に果敢に挑み続け、なおかつとびきりのキュートさを維持し続けました。というより、あのコケティッシュな独自の魅力、失態を繰り返すことによってより輝きを増す「二枚目半」の魅力は、彼女が「発明」した「新しい女の子のカタチ」だったような気がします。その姿を通じて、当時の女の子に(そして、男の子にも)、「キュートであるために、完全無欠な美少女である必要などないッ!」と最初に宣言したのが、70年代的「おてんば」の象徴としての岡崎友紀だったのではないでしょうか?
 大げさにいえば、それは、日夜、数々の劣等感にさいなまれ続ける当時の若者たちに向けた「生き方」に関する新しいアイデアの提案だったのかも知れません。

(2009.12.5)


岡崎友紀 ベスト30


おくさまは18歳 コンプリートDVD-BOX(上巻)


アナログ版シングル「恋するふたり」(東芝EMI)。両面ダブルジャケット仕様で、このページのタイトル横の写真が上記のジャケ裏です




『おくさまは18歳』放映時(っていうか、僕の世代は「再放送時」なんですけど)、お調子者の女子の間で流行ったフレーズ。岡崎&石館夫妻の隣人、かなりブッとんだ漫画家「花咲ユメ子」(ケロンパ=うつみみどりが演じる!)の決めゼリフ。「くやしいわ」の部分は「うれしいわ」「恥ずかしいわ」など、さまざまな言葉に変えられて活用される



初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



アクセス解析

inserted by FC2 system