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僕はあまりアイドルに興味を持つ子供ではなくて、キャンディーズにもピンクレディーにも、松田聖子を筆頭とした80年代アイドル群にもひっかかりませんでした。 小学校5年生のころ(*2)、H田君が「榊原郁恵と大場久美子、どっちが好き?」と聞いてきました。当時、なぜかあの二人は比較されることが多く、その後も「ゆるいチーム」みたいに二人セットでメディアに扱われることが多かったんですよね(*3)。どっちにもそれほど興味はなかったけど、榊原郁恵は「八百屋のアルバイトのお姉さん」にしか見えなかったので、取りあえず「大場久美子」と答えておきました。 それを聞いていたらしい班長のT岡さんが、翌日、「はい。これあげる」と僕に紙の束を手渡しました。見ると、すべて大場久美子の切り抜き。『明星』などのティーン向け芸能誌から、わざわざ切り取ってくれたらしい。とりあえず「ありがとう」と答えておきました。 彼女の出演している番組はなるべく見るようにして、CMなどにも注目する。少ないお小遣いをやりくりして、レコードも買ってみる……てなことをしているうちに、本当に好きになっちゃったんです。 大場久美子は女優、もしくは(特に何ができるというわけでもない類の)タレントとしての活動が目立ちましたが、その特異な才能が一番輝くのはやはり歌手としてだと思います。 アンチ・ロックのムーブメントでもあったラウンジブームが花開いた90年代以降、疑似昭和歌謡、フリーソウル、テクノ、ガレージパンクなどなどの分野で、さまざまな女の子たちが必死で「それっぽさ」を求めてきました。が、誰にも「シャンソン人形」の「揺らぎ」は再現できない。再現などできるはずはありません。技術の問題ではなく、それは「血」の問題だからです。 僕の知る限り、「揺らぎ」の再現に唯一成功した人間が元ザ・ブリストルズのファビアンヌ・デルソル嬢なんですけど、この人は黒魔術に精通した魔女であり、すでに幼少期に悪魔に魂を売ったうえで「娘たちにかまわないで」を歌う資格を得たらしいので、なんの比較にもなりません。 大人になって、「神の子」フランス・ギャルはもちろん、アストラッド・ジルベルト、クロディーヌ・ロンジェなどの「揺らぐ声」に魅了されるようになり、それからなんとなく聞き返した大場久美子の楽曲で、「やっぱり僕は本当にこの人のことが好きだったんだ」と再認識しました。 大場久美子の歌といえば、中ヒット曲「スプリングサンバ」、あるいは小ヒット「エトセトラ」、もしくは「コメットさん」のテーマになった「キラキラ星あげる」あたりが有名ですが、僕の一押しはロッテのチョコレートのCMに使われた「大人になれば(*4)」。 思いっきりメランコリックなイントロにつづく「♪大人になれば、チョコレート食べて、いろんなことを考えるものさ」という「少女の哲学」が恥ずかしく炸裂するアレです。 |
いろんな事を考えるものさ 夢とはなんでしょう? 恋とはなんでしょう? 甘くて苦い味のものかな? 青い空に 飛んでいって 恋の味を そっと そっと 聞いてみよう *repeat 青い海原にひとり船うかべ チョコレートひとつ 口にふくんで 淡い面影 胸に抱きしめ 思い出も もっと もっと この胸に そっと そっと 聞いてみよう *repeat |
(*1)1978年発売の1stアルバム『春のささやき』。「スプリングサンバ」「エトセトラ」「大人になれば」などの有名曲は未収録ですが、「曲間ナレーション入り」のカルト感で人気 (*2)1978年。ちなみに、大場久美子デビューは77年。 (*3)大場久美子&榊原郁恵のコンビで印象的なのは、安手のコメディドラマ『少女探偵スーパーW』。宇宙人のプンチ(榊原郁恵)と刑事の娘ポンチ(大場久美子)がコンビで事件を解決する、というもの。ほとんどコントみたいなセットで物語が展開されていた記憶がある。 (*4)「若者たち」の「アフタースキー」のひとときを描く「サンモリッツ速達便」も傑作。 (番外情報)大場久美子の「レイア姫事件」 |
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