初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



 「大阪“昭和遺産”紀行」
    1.プロローグ


本稿は2012年11月7日〜9日にtwitterおよびinstagramに
投稿したテキストと写真を再構成し、補足・追記したものです。

*関連トピック:
公式長編記録映画 日本万国博



1.プロローグ
2.「通天閣に登る!」の巻
3.「道頓堀を歩く!」の巻
4.
「“万博遺産”探訪!」の巻
5.おまけ「京都チラ見!」の巻



1.プロローグ ながいながい万博の話
 レトロ系の原稿を書きはじめた頃、なんとなくぼんやりと決めていたのは、歴史上の大事件とか国民的イベントのような、いわゆるエポックメイキングな出来事はテーマに設定しない……ということでした。
  というのは、レトロカルチャーに興味を持った中学生のころからさまざまなレトロ本を手にしてきて(当時は大型書店にも「昭和レトロ」なんてコーナーはな く、そういう本は「歴史」の棚にあったんですけど)、東京タワー竣工やら、東京オリンピックやら、大阪万博やら、オイルショックやらをキーワードにした昭 和文化分析は「死ぬほどつまらないし全部が嘘っぽい!」という実感をイヤというほど味わってきたからです。
 なので、自分の子ども時代の「なにもない一日」の記憶だけにこだわるようにしよう、なんてことを考えていました。

 ところが、数年前から実際に目にしてもいない大阪万国博覧会に関する興味がムラムラと湧きあがってきて、いかんともしがたくなってしまいました。
  万博開催当時、僕は3歳。もちろん会場には行ってないし、当時の世相についてもほとんど記憶していません。ただ、我が家では父親だけが会場に赴き、「とに かく大混雑していてウンザリした」と感想をもらしていたのを覚えています。「月の石」を展示していた話題のアメリカ館などには何時間並んでも入場できず、 しかたがないので「農業」や「畜産」をテーマにした不人気な各国パビリオンだけを見てきたそうです。万博のテーマである「未来っぽさ」とか「科学っぽさ」 は少しも味わえなかったようです。

 僕が万博に興味を持つようになったきっかけは、このサイトでも紹介した『公式長編記録映画 日本万国博』を目にしたことことでした。信じがたいほどに強烈なデジャブ感があったんです。それは、主に「モノのデザイン」に関する既視感でした。ひとことで言えば、自分の好きな「感じ」のモノが全部ここにある! という驚きです。
  幼少期に見た無数のアニメや特撮ドラマなどに登場する70年代的なレトロフューチャーなモノたちはもちろん、いわゆる「ポップ」とか「キュート」とか形容 されるサブカルなモノたち、さらには「前衛的」だったり「アーティスティック」だったりするファインアートなモノたち。幼少期から大人になった現在ま で、なんとなく「あ、こういうの好き!」と即座に反応してしまうようなモノが、すべて万博会場にありました。
 それを知ったとき、ちょっと怒りにも似た驚きを覚えました。極端な言い方をすれば、「自分が今まで好きになってきたモノは、全部が万博の“パクリ”じゃないか!」という感慨です。

 万博は「科学」と「未来」の祭典でしたが、ある意味では「デザイン」と「アート」の祭典でもありました。空想上の「未来のモノ」のデザインを提示した、というか「規定」してしまったイベントだったのだと思います。

  万博以降、僕らが目にするマンガやアニメ、特撮ドラマなどなどは、「万博的なモノ」であふれかえりました。そうしたメディアに登場する未来のメカやツー ル、都市などばかりでなく、髪型や服(特に女の子の)などのファッションなども「万博的」になったわけです。それによって僕らの「未来観」、つまり「想像 力」までが「万博化」し、さらには、僕ら世代がどんな「形」を「かっこいい!」と思うか、どんな「色」を「キレイ!」だと思うか、といった基本的美意識などまで も「規定」されてしまったような気がします。
 万博を知らない世代であるはずの僕らは、実は万博の「残骸」に囲まれながら育ったのだと思います。

 『昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀』の根底には、そういう万博、および万博によって頂点を極めた「20世紀に空想された21世紀」のイメージに対するネジクレ曲がった「愛」と「憎悪」を込めたつもりです。
 また、『ぼくらの昭和オカルト大百科 70年代オカルトブーム再考』も、万博の話からスタートします。これも、僕ら世代が逃れられない万博の「未来観」、というのはつまり同時に「終末感」なんですけど、70年代初頭に蔓延した「来るべき世界の終わり」の予感と、そこから派生するさまざまな「恐いもの」(の楽しさ)を考察したつもりです。

  つまり、僕は上記の2冊の本を書いた2012年の1年間、大阪万博をネタに「商売」してきました(笑)。
  なのに、実際に「太陽の塔」を目にしたことは一度もないし、 EXPOパビリオン(万博公園内の万博資料館)にも行ったことがない……ってのがずーっと気になっていました。それを身近な読者に言うと 「えぇっ! 行ってないのォ?」と驚かれちゃったりします。その度に「僕は別に万博マニアじゃないし、こっちは当時の関係者の方々に取材して非公開の資料 を見てんだゾ、バカ野郎! 写真借りるのに数万円も要求する独立行政法人運営の資料館なんかに行ってたまるかヨ、この野郎!」なんて思ってたんで すけど、これは、まぁ、完全に負け惜しみです。

 というわけで、旅行嫌いの自分の体質と格闘しつつ(いや、旅行は嫌いじゃないんですけ ど、東京を離れると残してきた仕事に思わぬハプニングが起こる……ような気がして不安になっちゃうんですよね)、取りあえず2冊の本を書かせてくれた「太 陽の塔」さんにお礼を言いにいこう、ひとりの「万博の子」として「太陽の塔詣で」をしに行こう、と思い立ったわけです。
 ついでに、「高度成長期っぽい観光地」が大好きなので、大阪のそういうベタベタなところも見てきちゃおう、てなことになりました。

 では、その顛末にお付き合いください。


1.プロローグ
2.
「通天閣に登る!」の巻
3.「道頓堀を歩く!」の巻
4.「“万博遺産”探訪!」の巻
5.おまけ「京都チラ見!」の巻


初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



アクセス解析

inserted by FC2 system