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「そばかす少女」たちの「おてんばモード」

 「♪そばかすなんて気にしないわ」





 70年代の典型的な女の子ファッションとして、現在のメディアで「これが当時の定番」として登場するのは、たいていはフラワームーブメントの余波を受けたサイケデリックモードというか、ヒッピールックというか、ラヴ&ピース系。

 すなわち、超ロングのストレートヘア、ちょっとオリエンタルかつエスニックなプリント(もしくはLSDラリラリ原色パターン)のノースリーブのダラ〜ッとしたワンピース、巨大なサングラス、素足にサンダル、といういでたち。
 別タイプとしては、やはりロングヘアにタイトなTシャツ、デニムのベスト、1kgくらいありそうなバックル付きのブッといベルトにベルボトム(もちビッグジョン)、そしてブーツ。オプションとしては、これらにちょっとカウガール風味がプラスされる、ってなところ。

 一方、これに対するアンチとして、ヨーロピアンな夢見る少女系フェミニン派みたいなのもあって、こっちは白、もしくは薄い水色のドレスに麦わら帽子という無敵のニンフェット・スタイルを指向。ほとんど「あなたにも、チェルシー、あげたい」のスザンナ・ナイベルちゃん(当時9歳)です。

 この3種は現在の70年代ファッション研究的な資料でもよく見かけますが、当時幼稚園児だった僕の記憶に、「これこそ70年代!」という形で焼き付いている女の子モードは、ヒッピーでもニンフェットでもなく、「おてんば」です。

 つまり、カールしたショートヘアにブッカブッカのキャスケット(デニムのものがベスト)、Tシャツはなんの変哲もない白だけど、欠かせないのはデニムのオーバーオール(これまたブッカブカ)、足にはハイカットのコンバース(ヒモがほどけてたりする)……という感じ。

 この種の「おてんば」モードは、当時の雑誌広告やテレビCM、ファッション&コスメ系の街貼りポスターなどに、「もういいよ」と言いたくなるくらいに氾濫していました。
 女児玩具の人形などもこの種のファッションを取り入れていて、セキグチのマドモアゼル・ジェジェとか、同社の初期型モンチッチもモロに影響を受けています。考えてみれば、サンリオのパティ&ジミーなんてのも、このモードの亜種ですね。

 ルーツはどのあたりにあるのか知らないけど、やはりイラストと本人のファッションで当時の女の子の「小娘心」をくすぐりまくった水森亜土?
 『おくさまは18歳』の岡崎友紀なども、このモードでキュートなコメディエンヌぶりを炸裂させていたのを思い出します。

 70年代「おてんば」モードに身をかためる女の子たちにとって、絶対に忘れてはいけないのが(忘れるとか忘れないの問題ではないけど)「そばかす」。

 かつて、「そばかす」は明らかに女の子たちの「最大のチャームポイント」でした。
 少女マンガやティーン向け小説の主人公たちはやたらと「そばかす」があることになっていたし、「朝ご飯を食べて、クミはいつものように鏡を見る。うん、完璧! あのにくったらしいそばかす以外は」みたいな一文があったりして、「主人公が自分のそばかすを気にしている」みたいなポーズも含めて、「そばかすのある子はキュートである」といったいささか屈折した価値観が共有されていたんですね。この屈折の構造はややこしいんですが、「そばかす=キュート」という一般常識があるなかで、でも本人は「そばかすが大っキライ」で、そのコンプレックスもまた「キュート」ということが一般常識にされている……みたいな感じ。
 『キャンディ・キャンディ』の「♪そばかすなんて気にしないわ」は、実はちょっぴり「自慢」なんだと思います。

 「美白ブーム」以降、女性にとって「そばかす」は単なる「ノイズ」として扱われてしまうようですが、実際、「そばかす=キュート」という一般常識は、実は現在もかなり有効なんじゃないかと思います。80年代から90年代、雑誌『オリーブ』は「おてんばモード」の「そばかす少女」をバブル仕様にアレンジして復権した、とも言える。今後、また「そばかすリバイバル」があるかも知れなませんね。

(2009.2.14)

↑上記の広告(三菱鉛筆「ユニホワイト」)に掲載されている
ポエムを引用してみます。
かなりウザイ「おてんば」自己主張 in 70'sって感じがイイ!

泣き虫で 一度泣きだしたら 180ccは涙が出るの
きげんの良いときは 23時間も話し続けたりする
チョコレートをいつも持っていないと不安で
決心するのが大の苦手で
コーラはブランドを指定する
ボビー・シャーマンのためなら 195時間と13分ならんでも平気
小道でK君に会った時 急に駆け出してしまった
レモンと紅茶より ミルクと紅茶の方が好きで
レモンは だってまるごとカリリッとかじるもの
特別気にいっているセーターは 古い上等の男物
ツメは いつも桜貝色 なーんにもつけない
飼猫のルルが食事のときは ヴィヴァルディの「四季」を聞かせるの
“yes”も“no”もはっきり言います いつも



70年代「おてんば」モード4種





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