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「ピーナッツブックス」

「My First “哲学書”」




 チャールズ・M・シュルツによる世界的に有名な新聞連載マンガ「ピーナッツ」。このタイトルにピンとこない人でも、「あの“スヌーピー”のマンガだよ」と言えば知らない人はいないでしょう。

 僕が最初に「ピーナッツ」の本を手にとったのは、たぶん小学校2、3年のころだったと思います。当時、鶴書房 (ツルコミックス)から出版されていたペーパーバックスタイルの『ピーナッツブックス』。訳はもちろん谷川俊太郎。買ったのは第7巻の『ずっこけスヌー ピー』でした。東急東横店の本売り場で買ったような気がするなぁ……。

 思えば「スヌーピー」って、「ミッキーマウス」と並んで、僕ら世代が最初に出会う“キャラクター”でした。サンリオがブレイクする直前でしたから、文具や洋服などのキャラクターグッズの多くに「スヌーピー」関連商品が氾濫していましたね。
 そういうこともあって、「あ、『スヌーピー』ってマンガも出てるんだ」と思って、僕はツルコミックスの『ピーナッツブックス』を手にしたんだと思いま す。そのときは、「スヌーピー」を主人公にした『オバケのQ太郎』みたいなドタバタギャグを頭に思い浮かべていたんですが……。

 一読して、ただポカ〜ンとなってしまいました。無理もないです。虚無感と悲哀に満ちた「ピーナッツ」の世界は、 10歳にも満たないガキには「???」なんですよね。「笑えない」どころか、さっぱり意味がわからない。やたらと登場人物が“タメイキ”をつくんですが (溜息はフキダシに“タメイキ”と表記されるんです)、なんでここで“タメイキ”なんだろう? どうして“タメイキ”が“オチ”になるんだろう?と、首を かしげっぱなしでした。

 でも、どういうわけか、わからないなりに『ピーナッツ』の世界は魅力的で、繰り返し繰り返し『ずっこけスヌーピー』を読んでいました。
 どのエピソードも「そこはかとない不安」とか「そこはかとない幸せ」とか「そこはかとないおかしみ」を表現したものばかりで、その「不安」「幸せ」「お かしみ」などの内実については少しもわかってはいなかったと思うんですが、「そこはかとないなにか」があるらしい……ということは伝わっていたような気が する。その「なにか」は要するに「人生」だってことが今はわかるんですけど、「人生」っていう言葉はちょっと『ピーナッツ』の世界にふさわしくない。もう 少し別の言葉で言うとどうなるんだろう? 日常? a day in the life? もしかしたら、今もあんまり『ピーナッツ』を理解していないのかも知れません。

 1978年、鶴書房(そのころにはツルコミックスと改称していました)は倒産。『ピーナッツ』は角川書店が引き継ぎましたが、初期作品は現在絶版状態です。
 「癒し」とか「自分探し」なるブーム以来、昨今はテーマ別にまとめたカウンセリング本みたいな『ピーナッツ』作品が多数出版されているようですが、こう いう「サプリメント」的な扱いの再編集本よりも、古本屋でツルコミ版を見つけたときに買う……っていう方が『ピーナッツ』の世界にふさわしいような気がし ます。いまだに70年代のものが多数市場に出まわっているし、お値段も比較的に安い。ページに前の持ち主の落書きや書き込みを発見するのも楽しいし、そう やって偶然出会ったチャーリー・ブラウンのセリフが心にグサリと刺さる……ってのが『ピーナッツ』の正しい楽しみ方だったりするのではないでしょうか?


(2010.3.21)




今見てもスタイリッシュなツル版『ピーナッツ』。やっぱりこの判型じゃないと


この教科書みたいな訳者紹介ページが印象的。子ども時代は「なんかオトナっぽい本だなぁ」と感じたものです。思えば、僕が最初に手にした谷川俊太郎の本って、『ピーナッツ』なんですよね


先日、古本屋で買った「ピーナッツ」の奥付部分に、こんな書き込みがありました。30年も前の、誰かの想い


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