初見健一のweb site * 東京レトロスペクティブ



タイヤの看板

「町工場は東京の匂い」




 僕の幼少期にはすでにホーロー看板は「遺跡化」していて、あるにはあったけど……という状態でした。なので、いまひとつ思い入れはないんですよね。
 町々でよく見かけた看板としては、ホーローの金鳥やフマキラーより、ブリキ製の「タイヤの看板」が妙に印象に残ってます。


 1980年くらいまでかな、東京にはたくさんの町工場があって、今では町工場というと下町のイメージですが、当時は山の手にも多かったんです。僕が育った渋谷区恵比寿では、特に個人経営の自動車修理工場が多かった。近所の人からはたいてい「タイヤ屋さん」なんて呼ばれる一種のガレージで、狭い町内に5件ほどあったと思う。

 たたずまいはどれも同じようなもので、構造としてはどの工場も単なるガレージ。汚い車庫(笑)。店先に古タイヤなんかが積まれていて、あと、あれはパンク箇所を調べるためのものなのか、「ブリジストン」などのロゴ入りのプラスチック製のスタンドつき水槽(?)が置かれている。工場のなかには修理中の車が2、3台。で、オイルだらけのつなぎのおじさんがスパナ片手にもくもくと働いていたりして。

 今も下町方面を歩いていたりすると、同じような工場を目にします。懐かしいのは、まずその匂い。
 機械油の匂いって、本来は嫌なものなんでしょうけど、それが漂ってくると反射的に幼少期の記憶がムラムラとよみがえってきます。
 よく、そういう町工場の前で、オジサンたちが車の下にもぐったりしているのをボーっと見ていたもんです。ゴミ箱代わりにしているドラム缶に詰まった金属クズ(板金を削ったクズ。クルクルとしたスプリング状の形をしている。ただ、手が切れたりするので危ない)を勝手にもらってきちゃったりもしたな。それから、思い出深いのが工場前の水溜り。工場では清掃などに水を大量に使うらしく、必ず店前に水溜りができている。で、その水にはオイルがまじっているので、光の加減で七色に見えるんです。友達と、「あ、ほら、虹だ、虹だ!」なんてよく騒いでました。

 そういう工場の周辺に貼られていたのが、タイヤメーカーの看板。いや、工場周辺だけじゃない、当時はタイヤメーカーの街貼り広告って今よりずっと多かった。高速道路沿いとか、線路わきなどに特に多かったので、家族旅行の記憶とも密接に結びついています。

 なかでも脳内に刻まれているのは、ニタリと微笑む「タイヤ人間」のイラストが描かれた「ヨコハマタイヤ」の看板。あれ、ちょっと恐いですよね。一見、フレンドリーだけど、うかつに近づくと理不尽なケンカを売ってきそうなキャラ(笑)。今ではあのキャラはメーカーから「解雇」されてしまいましたが、いなくなるとやっぱりサミシイ。

 昔の広告キャラって、やっぱりスゴイなぁ、と思います。子どもの頭にドン!と強烈な印象を残して、それ以来、何十年も消えずに記憶に刻まれているもんなぁ……。シンプルで、なおかつちょっとクセがあるデザインと、使用サイクルの長さなどに要因してるんだろうけど、現役の広告キャラのなかで、現代っ子たちの頭に何十年も住みつづけることができるヤツはいるのかなぁ?なんてことを考えてしまいますね。「どーもくん」とかイケるかね、恐いし。

(2009.12.8)

ヨコハマタイヤの「タイヤ人間」。独特の笑顔です。コイツが恐い、っていうか、なんか「悪い」感じがするってのは、『ガッチャマン』の悪役「ベルクカッツェ」に似てるから、のような気がする。男だか女だかわからないツヤめいた唇とか

これもよく目にしたなぁ。こういう「融合」「合体」デザインって、妙に子どもの記憶に残るんですよね


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