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夜光塗料

「妖しく“キケン”な光」




 僕ら世代は、子ども時代にやたらと「夜光塗料」なるものに親しみました。
 「夜光塗料」ってのは、「蓄光塗料」とも呼ばれている通り、光を蓄積する特殊な塗料。光にあててから暗闇に持っていくと、ポワ〜ンと薄緑色に光る化学物質です。現在もアナログ時計の数字部分に使われているヤツ。

 かつてはオモチャ、特に駄菓子屋さんで売っている駄玩具の多くに使用されていました。
 ザッと思い出してみるだけでも、たとえば定番の「夜光ガイコツ」。夜光塗料が練りこんであるプラスチックの小さな骨格標本みたいなガイコツで、キーホールダーになっていました。それから「おばけカード」などと称する妖怪やお化けのイラストが描かれたカード。モンスターたちの輪郭部分が「夜光塗料」で描かれているだけなんですが(砂が混じったような塗料なので、線の表面がザラザラしているのが特徴なんですよね)、これを持ってよく押入れに閉じこもったりしてた。シールもあったし、いわゆる「ゴムの爬虫類」にも夜光タイプがあった。プラモデルにも夜光タイプの部品が含まれていることが多かったし、男児玩具の主流だったソフビ怪獣にも「夜光塗料」を練りこんだバージョンが販売されていました。

 しかし、印象深いのはなんといっても「夜光塗料」そのもの。

 塗料それ自体が駄菓子屋さんで売っていたんです。5cmくらいの高さのプラスチック製試験管みたいなものに入っていて、小さな筆のついたキャップがついていました。水っぽい部分と砂っぽい部分が分離しているので、使う前にはシャカシャカとよくシェイクする。で、黒い紙におばけの絵を描いたり、怪獣の絵の目の部分だけを塗ったりして、それを暗闇に持っていって、「おぉ、光る、光る!」なんつって遊ぶわけです。ま、だいたい5分で飽きちゃいますが。
 塗料に蓄えられた光はすぐに「エネルギー切れ状態」になって、しばらく見ているうちに光がす〜っと薄れちゃうのが悲しい感じ。

 あれだけ子どもシーンに氾濫していた「夜光塗料」ですが、あるときからめっきり目にしなくなりました。
 なんと、僕らが親しみまくったタイプの「夜光塗料」には、微量ながら放射性物質が使用されていたらしいんです! 「ラジウム」っていう物質。かねてから危険性が問題視されていたそうで、1996年に使用禁止になりました。遅くね?
 僕たち、押入れで「光る、光る!」なんてはしゃぎながら、うっすらと「被ばく」してたってわけ?

 でも、今も工作用品ショップなんかにいくと「夜光塗料」は売ってんじゃん、時計なんかにも使われてるし……って思う方も多いでしょう。放射性物質不使用の夜光塗料が発明されて、現在はそちらが普及するようになっているそうです。

 「夜光塗料」の緑色の光を見ると、反射的に「夏!」という気分になる。縁日のおばけ屋敷を思い出しちゃうせいでしょう。地元の神社で開催されていた縁日には、いかにも手づくりの安っぽいおばけ屋敷が登場することがあって、内部の黒い壁のあちこちに、「夜光塗料」で描かれた人魂や一つ目小僧が怪しく光っていました。
 あのポワ〜ンとした怪しい光、なんともインチキくさくて、アンダーグラウンド感満点の薄緑色の光は、やっぱり日本の「ホラー気分」には不可欠のものだと思います。


(2010.1.10)



夜光版のソフビ怪獣「ナメゴン」です。

暗闇に持っていくと……ポワ〜ン



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