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まるひで「ようかいけむり」

「紙製駄玩具の異端」









 その昔、駄菓子屋で売られているオモチャには「ただの紙切れ」みたいなモノ がいっぱいあって、その代表は今でいうトレカに近い感覚のクジ式カード類(怪人・怪獣・スーパーカーなどなど)ですが、夜光塗料で光るお化けの紙人形 とか、「電車ごっこ」などに使用する子どもキップとか、「お買い物ごっこ」に使用する子ども銀行のミニ紙幣とか、「読むドラッグ」みたいな「点取占い」 (まだある)とか、このサイトでも紹介している「ミニレター」セットとか……とにかく昭和の子どもは「紙切れ」をオモチャにして遊ぶことが多かったと思い ます。

 そうした紙製駄玩具界のなかでも、異端的存在だったのがこの「ようかいけむり」。おそらくこの分野(?)のパイオニアである「まるひで」の商品は現在もしっかり生き残っていますし、未だに類似品(「おばけけむり」「カードけむり」)なども現行品として売られています。

 若い世代にもそれなりに認知度があるようですが、一応どういうものか説明しておきますと……
  まず、駄菓子屋の店頭に吊るされた「ようけいけむり」の束から、10円を払って一枚ピッと抜き取ります。カードの表面には素晴らしくオドロオドロしいタッ チの妖怪(?)のイラストが印刷されているんですが、肝心なのは裏面。遊び方が解説された赤い表面にハトロン紙のようなものが貼りつけてありまして、これ をペリペリと半分くらいはがします。なにやら得体のしれない接着剤みたいなものが露出するので、そのネチャネチャした部分に人差し指をこすりつけます。
  で、ネチャネチャがついた人差し指と親指をくっつけたり、はなしたり、くっつけたり、はなしたり……という動作を繰り返すと、あらフシギ、二本の指の間か らモクモクと煙りがたちのぼる……というのは大げさですけど、煙が出ているように見ようと思えば見える、ということが起こるわけです。それだけ。要するに 接着剤のカスが指の間からフワフワ舞い上がるわけですね。

 「昭和の子はそんなことをおもしろがってたのか」とあきれるかも知れません が、別におもしろがってたわけではありません。「ようかいけむり」で遊びながら「わーっ、煙だ、煙だぁ!」なんてはしゃいでる子は周囲に一人もいませんで したし、どちらかと言うと「ヘヘッ」とバカにしたような笑を浮かべながら遊んで、すぐに「くだらないなぁ」と投げだしてしまうような商品だったと思いま す。
 が、それでもなぜか「何度も買っちゃう」というのが「ようかいけむり」の不思議な魅力でした。駄菓子屋でアレコレ買って、あまった10円で「またこれでも買っとくか」とついでに買っちゃう。ちょっとした退屈しのぎの手遊びにはちょうどよかったんだと思います。

  園児時代、退屈しきっていた僕は、部屋の畳に仰向けに寝そべって、ひたすら「ようかいけむり」をネチャネチャやって、天井へとフワフワ舞い上がっていく煙 をボンヤリと眺めていたことがありました。そこに入ってきた母親が「わ! ちょっと、なにしたのよ? 部屋中、ホコリだらけじゃないの!」と顔をしかめま した。
 「なにもしてないよ」と僕は答えました。「ようかいけむり」から出る煙は、目を凝らしてやっと見えるほどの量です。部屋中をホコリだらけにすることなんてできるはずはありません。そんなの、僕のせいじゃないよ。
  「こっちに来て、部屋のなかを見てごらん」と母親に言われて、母の立つ位置から部屋のなかを眺めて見ました。寝そべっているときはぜんぜんわからなかった んですけど、窓から入る日差しで明るくなった空間を見ると、ギョッとするくらい大量のホコリがフワフワと浮遊していました。あきらかに「ようかいけむり」 です。僕と母親は口を抑えながら、慌てて窓を開けました。
「そのへんなの、家のなかでは二度とやらないでよ!」

 「ようかいけむり」には「よくでる!」なんてキャッチコピーが書いてありますけど、目には見えにくくても本当に「よくでる」ようです。閉めきった部屋のなかでの「やりすぎ」には注意しましょう。

(2011.10.24)


1束31枚 ようかいけむり

1束31枚 ようかいけむり
価格:535円(税込、送料別)



この状態で駄菓子屋さんの店頭に吊るされていました。


カードの絵柄は4種類。「いっひっひ」とか「ぎゃおー」とか、なにも考えていない感じが素敵です


1枚抜いた状態。これが当時は10円でした


裏面のネチャネチャと遊び方解説。この白っぽい薄紙をはがすわけです


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