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映画のチラシ収集ブーム
「すみませぇ〜ん、
チラシもらっていいですかぁ?」
*関連トピック:映画雑誌「スクリーン」「ロードショー」




 映画雑誌の話を書いたら、どうしてもコレについても書きたくなっちゃいました。70年代の小学生男子(やはり主に男子中心の文化だったと思う)を急襲した映画チラシ収集ブームです。

 ブームといっても、いまひとつその全体像がわからないんですよね、これ。
 僕の感覚では、映画のチラシを集めてる人は今もいるし、70年代以前にもいただろうから、ブームというより年齢的な通過儀礼だと思っていました。つまり、どの世代でも、小学校高学年くらいになると映画に興味を持ちだして、取りあえずチラシを集めはじめる、というような。

 が、調べてみると、どうも70年代に一応ブームと呼べるような現象が全国的に存在したようですね。というのは、現在のように映画のチラシが定形のスタイルを持ちはじめ(B5判)、ほとんどすべのものがカラー印刷されるようになったのは、60年代の後半だったそうです。
 このころから、単なる紙切れだったチラシがコレクションの対象になったのでしょう。当初はハイティーンを中心とした趣味だったと思うんですが、それが小学生のガキのところまで降りてきたのが、おそらく70年代前半からなかばにかけてのことだったようです。
 ちなみに、僕ら世代がチラシ収集ブームに巻き込まれたのは1979年前後でした。たぶんブームの衰退期直前だったのだと思います。

 ちなみに、僕ら世代がブーム真っただ中にいた79年公開の映画のなかから、当時の子どもたちの間でチラシ人気の高かった作品をピックアップしてみると……

・宇宙空母ギャラクティカ
(ぱちもんスターウォーズ)

・アトランティス7つの海底都市
(クリーチャー出しまくりSF映画)

・Mr.Boo
・Mr.Booインベーダー作戦
(お手軽お下品な香港コメディ)

・オーメン2
(小憎ったらしさ倍増の悪魔の子)

・ディアハンター
(やたら過大評価されたベトナムもの)

・サバイバルファミリー
(「アドベンチャーファミリー」と区別がつかない)

・がんばれ!ベアーズ大旋風
(日本ロケで大ブーイング)

・エーゲ海に捧ぐ
(某芸術家の脱力エロ映画。チッチョリーナも登場)

・スーパーマン
(当時としては飛行シーンが秀逸)

・指輪物語
(いわゆるアニメ版『ロード・オブ・ザ・リング』)

・エイリアン
(「タマゴじゃない方」のチラシが人気)

・ドランクモンキー酔拳
・スネーキーモンキー蛇拳
(モンキー・パンチのイラストがクール)

・チャイナシンドローム
(ブカブカのヘルメット姿のジェーン・フォンダがキュート)

・ポセイドンアドベンチャー2
(“2”にしては作品のデキもよかった)

・太陽を盗んだ男
(ストーンズ来日させないと原爆落とすゾ)

・ファンタズム
(これ変な映画だった!リメイク希望!)

・007ムーンレイカー
(いよいよコメディ化するムーアのボンド)

・マッドマックス
(インター・セプターとショットガン!)

・戦国自衛隊
(角川のいつもの大風呂敷)

・アルカトラズからの脱出
(個人的にはこの年のベスト。あ、でも『イノセント』もあるのか…)

 ……と、まあ、内容ではなく、あくまでもチラシ人気でランダムにピックアップしてみましたが、なんとも玉石混交。ですが、さすが70年代。けっこう豊作ですよね。年表を見ると『さらば青春の光』とか『カリオストロの城』もこの年の公開でした。

 当時、僕らの映画チラシ収集方法ってのは、基本的には土曜日の午後(午前中は授業があった時代)、4〜5人で渋 谷駅で集まって、渋谷中の映画館をしらみつぶしにわたり歩くんですね。もちろん映画を見るわけじゃありません。そんなお金ないし。入口のスタンドに置いて あるチラシを、ごっそりいただいちゃうわけです。ごっそりってのは本当にごっそりで、たとえば『エイリアン』みたいな人気チラシは、友人たちとのチラシト レードに使えるってことで、一人ひとつかみって感じで数十枚もってっちゃう。今考えるとひどい話ですけど。
 で、なかにはチラシのスタンドをエントランスの中に入れている映画館もあって、こういうところではチケットを買わないとチラシを取れない。じゃあ、あき らめるかっていうと、そんなことなくて、受付のお姉さんに「すみませ〜ん、チラシもらっていいですかぁ〜?」とか言って図々しくタダで入れてもらっちゃ う。規則としてどうだったのかはわかりませんが、当時は「はい、どうぞ」って言ってくれる親切なお姉さんが多かったんです。で、またごっそり奪ってく。
 当たり前といえば当たり前ですが、ブームの後半には、「チラシもらっていいですかぁ〜?」と頼んでも「ダメです!」と追い返されたり、「一人一枚までね」と釘を刺されたりした記憶があります。

 集めたチラシは大切にクリアファイルに入れて、そのファイルが徐々に分厚くなっていくのがとても楽しみでした。
 考えてみれば、現在の僕が映画好きになってるのは、ひとつには幼少期に母親からなかば無理やりにジュリー・アンドリュースとかのミュージカル映画を見せ られまくったこと、「2時のロードショー」などの映画カオス地獄的なテレビ映画枠に鍛えられまくったこと、そしてもう一つの要素が、この小学生時代のチラ シ収集にあったと思います。

 好きな映画を好きなときに見る、というわけにはいかない小学生にとって、大量のチラシコレクションファイルは、 未見の映画を見たような気にさせてくれる「妄想装置」でした。チラシ裏の解説をすみずみまで読んで、「あぁ、こういう映画なんだろうなぁ」とか「こういう シーンがあるんだろうなぁ」とか考えつつ、脳内上映していたものです。
 上記79年公開リストのなかにも、見てもないのにすっかり見た気になっている作品も多いし。また、脳内上映後に実際の作品を見て、まるっきり想像してい たものと違って戸惑ったりすることも、楽しみのひとつでした。『カリフォルニア・ドリーミング』(1979年)なんて、チラシを眺めているときは『グロー イングアップ』とか『ポーキーズ』的なエッチ青春コメディだと思っていましたが、実際に見たらけっこうデキのよい渋めの映画で、ウルウルしながら感激した 覚えがあります。

 このサイトで扱っていることがらにしては珍しく、映画チラシ文化は今もしっかり残っているどころか、ショップやネットなどで過去のチラシを手軽に購入できるようになったという意味では、昔よりも環境が充実しているような気がします。
 リアルタイムの映画や思い出の映画のチラシコレクション、あえて今やってみてもいいかなっていう気になってきちゃいますよね。あ、ならないなら別にいいんですけど。


(2010.12.2)

1979年お正月映画チラシ
(『スクリーン』79年2月号付録より)

この年、年間としてはけっこう豊作ですが、お正月映画はかなり地味だったようです……



「1」の印象的なサメ絵はそのままに、餌食になる女の子を水上スキーバージョンにした安易なデザイン


これもヒットしましたねぇ。監督は『キングコング』のジョン・ギラーミンでした


ヘンリ・マンシーニの音楽は素晴らしいし、ピーター・セラーズも好きなんですが、正直、このシリーズは冒頭のアニメ以外はかなりつまらない


全国にリーゼントブームを巻き起こしましたね。小学生のくせに缶入りのグリースを髪に塗ったくってる男子もいたなぁ


ハリーじゃなくてファイターの方。地味な映画ですが、渋いロードムービーの秀作です


今では忘れ去られてる作品ですが、当時はけっこう話題になりました。ファイヤーバードのジャンプシーンは小学生男子には胸キュンでしたね


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