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口裂け女

「知ってる? 目黒にいるんだって……」

*関連トピック:「なんちゃんっておじさん」




 都市伝説系の本などをチェックすると、どの文献にも「口裂け女のウワサは岐阜県で発祥、1979年ごろより全国に流布した」とあります。
 記憶ではもうちょっと前、1978年、いや、1977年ごろに東京に伝播したような気がする……んですが、今となっては確証がありません。



 そのウワサをはじめて耳にしたときのことは、今もはっきり覚えています。
 休み時間、音楽室で友人たちとウダウダしていると、クラスの女子のなかでもリーダー的存在であるマツカワさん&トミオカさんコンビが近づいてきました。
「ねぇ、口裂け女って知ってる?」
「なにそれ?」
「えー、女子はみんな知ってるよ。R小学校の子が何人も襲われてるんだよ」
 ってな具合。ま、定番パターンですね、「(うちの学校じゃなく)近隣の学校の子が襲われた」ってのは。もちろん、当時、近隣の小学生が誰かに襲われたなんて事実はなかったわけですけど。

 僕が初めてウワサを耳にしたこの時点で、すでに口裂け女伝説の定型、つまり「べっこう飴」とか「ポマード」とか 「時速●●キロで走る」とか「女は姉妹で片方が整形手術に失敗し……」という要素は全部そろっていました。ホント、小学生のウワサのネットワークってすさ まじい。っていうか、この種のオカルト情報は必ず女子発信だったけど、いったい彼女たち、いつもどっからネタを入手してたんだろう? これは今考えても不 思議。


 「1979年に流布」説からすれば、あの音楽室の場面は小6の記憶ってことになる。だけど、どうも5年生、もしくは4年生のころだったような気がするんだよなぁ……。


 ウワサを聞いた最初の印象としては、やっぱり「ポマード」とか「べっこう飴」の話などがバカバカしすぎて「なんだかなぁ」だったんですけど、ただ、かす かな恐怖のようなものは感じました。かなり尾ヒレがついたウワサらしいけど、そのヒレのない本体、つまり、「学校付近に恐い人がうろついている」という部 分は本当なんじゃないか? なんらかの理由で、その人の「口」が普通とは違っている、というのも本当かも知れない、というような。


 「●●ちゃん事件」と名づけられて昭和史に残るような誘拐事件が多発したためか、当時、「人さらい」という言葉をよく耳にしました。「人さらい」という言葉の響きは、現在流通している「不審者」とはまた別の意味で、小学生たちに不思議な恐怖を植えつけたと思います。
 「不審者」ってのは要するに「変な人」「危険っぽい人」ですが、「人さらい」って、なんとなく「人」じゃない感じがする。一種の妖怪というか、幽霊というか、得体の知れない邪悪さのかたまり。


 口裂け女の荒唐無稽なエピソードにわずかな恐怖を感じたのも、小学校入学時から「人さらいに気をつけなさいよ」と言われつづけて育ったせいかもしれません。


 マツカワさん&トミオカさんが音楽室で僕らに聞かせた口裂け女伝説には、ひとつだけ、「全国版」との相違がありました。 


「でね、その口裂け女って、目黒に住んでるんだって」


 いや、相違じゃないのかも。口裂け女は「隣の町に住んでいる」。これも多くのエリアでささやかれていたのかも知れませんね。


 渋谷区恵比寿の子どもたちにとって、「目黒」ってのはなんだかリアルに響きました。「襲われた子」がいるというR小学校も恵比寿の一番はずれ、つまり目 黒区との境界にある。これでウワサの重みはグッとアップします。となると、「じゃあ、もう目黒には近づかないようにしよう」ではなく、「んじゃ、目黒に 行ってみよう!」となるのが昭和のガキ。


 数日後、カタギリくん、ハンダくんと3人で目黒に口裂け女を見に行きました。「なにか」があっちゃいけないってんで、一応、みんな武器を持っていこうと いうことになり、カタギリくんはダーツ、僕は学研の「メカモ」みたいな金属ブロックで組み立てた折りたたみ状の棒、ハンダくんはなんだか忘れちゃったけ ど、どうせボンナイフかなんかだったと思う。


 で! もちろん口裂け女には会えませんでした。だって、岐阜県在住だもん、彼女(笑)。


 あの小冒険のことを思い出すと今もニヤニヤしちゃんですけど、目黒の路地から路地へとうろうろ歩きまわっていると、とにかくケガをしている人が目立つんです。眼帯している人、包帯している人、杖をついている人、車いすに乗っている人……。


「な、なんか、ケガ人がやけに多いね」
「おかしい。やっぱり目黒っておかしい」
「なんかあるね、やっぱり」
とかなんとか。

 ホントはね、ケガ人が多いわけじゃなかったと思う。
 そりゃ、人混みを歩けば、眼帯してる人や包帯している人の一人や二人はいますよ。僕たちは、そういう人たち「だけ」をチェックしていたんだ、たぶん。

 で、「けが人ばっかり!」なんて思っておびえていた。っていうか、おびえる自分たちを楽しんでいた。
 小一時間ほどの散歩、じゃなかった小冒険のあと、口裂け女を発見できなかったにも関わらず、僕らは充分に満足して帰宅しました。


「いなかったけど、気配はあったね」
「うん、絶対いるよ、目黒に」
「うん、絶対いるね、目黒に!」


(2009.12.3)


口裂け女 スペシャル・エディション


口裂け女2

これも昭和ブーム余波? ポツポツとつくられている口裂け 女ネタ映画ですが、一般的には「2」の評価が高いらしい。僕としては悲劇的な「2」より、なんかいろいろメチャメチャな「1」の方が楳図&アルジェントっ ぽくて好き。監督は悪名高い『グロテスク』を撮っちゃった白石晃士

マンガ1
ブームまっただなかの79年、
月刊「コロコロコミック」に掲載されたマンガ「怪奇!口裂け女」


マンガ2
なかなかイイ感じのキャラデザイン。
「赤いセリカに乗ってる」というウワサを設定に採用していました

















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