FMエアチェックやらをめぐる80年代ティーンたちの音
響機器ブームについてはこちら に
書きましたが、ここではブームの中核をなしていた「80年代のラジカセ」についての戯言を記しておきたいと思います。
60
年代後半に登場したラジカセは70年代にステレオ化されましたが、80年代以前はあくまでサブの音響機器というイメージで、一般的には「受験生が夜中に聞
く
ラジオにおまけとしてデッキがついてます」的なものか、高級機でも「短波やなにやら、いろんなラジオ局が聞けます」もしくは「野外録音に特化しました」み
たいなマニア向け機種が多くて、総じて地味な存在だったと思います。
その後、サンヨーの「U4」など、「女の子にも似合います」的なファッショナブル(当時としてはね)なモデルも出てきて、それなりに華やかにはなってい
くんですが、でもやっぱり「ドライブやキャンプのおともに」という感じで、依然として脇役でした。
が、僕が中学生になった80年代初頭、特にローティーンにとって、ラジカセは音響機器のメインの座に躍り出ました。きっかけはソニーの巨大ラジカセ「エナ
ジー」シリーズ。とにかくでかい! デザインがロボットみたいでカッコいい! ミニコンポなみの音! ということで大ヒットしまして、これが牽引役となっ
て各社が大型ラジカセを続々発売するようになったんです。
また、当時ようやく注目され始めていたヒップホップカルチャーのイメージとして、「黒
人がでっかいラジカセを肩にかついで歩く」だとか、「巨大ラジカセを囲んでブレイクダンス」みたいなビジョンが盛んにメディアに登場したので、「でかいラ
ジカセ=カッコいい」みたいな価値観が急速に形成されていったことも大きかったと思います。
本格的なコンポなんてものには手の届くはずもない当
時の僕らは、もちろん「もうステレオセットなんていらない! ラジカセで充分! っていうかラジカセのほうがcool!」という感じになりまして、ラジカ
セこそが僕たちのメイン音響機器に、っていうか、ライフスタイルにおける主要アイテムになっていったわけです(ま、「ウォークマン」ってのが別の形で存在
していましたが、それを書きはじめると長くなるので割愛)。
ソニー「エナジー」の広告。「山だ。」のキャッチコピーが強烈でしたね
僕はそれまで親のステレオセットで音楽を聴いていたんですが、やっぱり自分専用のステレオがほしいわけです。で、中2のお正月、御多分にもれずマイ巨大ラ
ジカセをお年玉で買うことにしました。当然、大ヒット中の「エナジー」を購入するつもりだったんですが、友人の新堂君が「ソニーのラジカセはデザインだけ
派手で音は最悪。アイワにしたほうがいい」なんて言うんですね。
アイワって今は激安家電メーカーという感じですが、当時はちょっと発明品っぽい
音響機器が得意な通好みの会社だったんです。で、いろいろ検討した結果、アイワ「ターボソニックJ77」ってやつを買いました。定価69800円。アキバ
で58000円くらいだったと思いますが、それでも今から考えれば中学生が所有するラジカセにしてはあまりに高価。でも、当時、この価格帯が大型ラジカセ
の平均で、音楽好きの子たちはたいていこのクラスのラジカセを持っていました。
贅沢な時代だった、ということではなく、今みたいにミニコンポが
1万円台で買えるなんて夢のような話で、当時の音響機器は総じてめちゃくちゃ高価だったんです。初代「ウォークマン」だって、当時の定価は33000円。
それをみんな高いとも思ってなかったし、音響機器ってのはそういうものっていう認識でした。だからこそラジカセが子どもたちのステイタスになったわけだ
し、当然、みんなそれぞれの機器を大切に長く使っていました。これについては、5000円程度で「iPod」が変えちゃう現在のモノづくりの現場がむしろ
異常なんじゃないかという気がしますけども。
で、僕が買った「ターボソニック」、これは本当に大正解でした。そのころから約30年、い
ろんなラジカセやらミニコンポやらを使ってきましたが、そのどれと比べても、「ターボソニック」の音は本当にタイトでクリアでした。このクラスの機器には
なかなかアタリがなくて、特に高校生になってから買ったビクター「Wao!」(レコードプレイヤーがビヨーンとフロントローディングされる変なミニコン
ポ)などは決定的にハズレでした(笑)。
アイワ「ターボソニックJ77」。かなりの名機なんです!
お正月、父親とアキバでラジカセを買って、帰ってすぐに梱
包を解き、試しにFMラジオを聴いてみたときのことは、新品の音響機器特有の不思議な匂いとともに、今でも妙にはっきり記憶しています。
最初に電源を入れて流れてきたのが、スティックスの「Too Much Time on My
Head」(81年の全米ヒットシングル)。スティックスにはまったく興味を持っていませんでしたが、「うんうん、スネアとハイハットのヌケがいいな」な
んてオーディオ誌の常套句をつぶやいたりしているうちに曲が変わって、プリテンダーズの「Talk of the
town」! 「わぁ、すごい! カッコいい! なんだ、この曲!」ってうろたえまくりながら、「あぁ、今、僕は自分のステレオで音楽を聴いてるん
だ!」っていう感動がヒシヒシと湧きあがってきました。
(2011.4.18)
Amazon.co.jp
ウィジェット