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アメリカンフットボール(NFL)ブーム

「脈絡なき熱狂」

*関連トピック:グルービーケース アメリカンフットボールブーム その2




 1970年代のなかばあたり、当時の小中学生の間で爆発的なアメリカンフットボール・ブームが巻き起こりました(*1)。この時代を知らない人にはちょっと想像がつかないと思いますが、本当に「爆発的」だったんです。

 とはいえ、子どもたちが休み時間にアメフトを楽しんでいたとか、テレビでのゲーム観戦に夢中になっていた、というわけではありません。
 奇妙なことに「アメフト、アメフト」と騒いでいた子たち、特に小学生の場合など、きちんとアメフトの試合を見たことのある子はごくわずかだったと思いま す。僕を含め、周囲の子のほとんどがルールすら知りませんでした。「何人で行うスポーツなのか?」と問われても、「けっこうたくさん」などと答えるしかな いほどの知識しか持っていなかったんです(*2)。

 では、70年代のアメフトブームとはなんだったのか? いったい、このブームにおいて「なに」が流行っていたのか?
 正確にいえば、これはアメフトブームではなく、アメフトグッズブームなんです。つまりNFL(ナショナルフットボールリーグ)関連グッズが「爆発」的に流行していたんです。スポーツではなく、ファッションとしてのムーブメントだったんですね。

 それはもう、本当に凄まじいほどの浸透ぶりでした。
 小学生男子の生活の全局面がNFLに覆い尽くされていた、と言ってもいい。世代からはずれる人は「ちょっと大げさじゃないのぉ?」と思うかも知れません。実際、今の僕があの頃を振り返ってみても信じがたいほどでした。
 一時のJリーグブームなんてもんじゃなかったし、グッズの量や多彩さは、60年代から長く続いたプロ野球ブームもかなわない。なにしろ、当時の多くの文 房具屋さんには「NFLコーナー」がつくられてしまう始末だったんですから。いくら当時の野球人気が絶大でも、文具屋に「プロ野球グッズコーナー」が出現 したことなどあっただでしょうか?

 ブームの中心というか、NFL関連の文具・学用品が大ブレイクするきっかけをつくったのが、オシャレ男子必携の「NFLグルービーケース」。
 「グルービーケース」とは、中高生、及びランドセルを嫌う生意気な小学生がこぞって買った紙製の箱型バッグ。1973年にミドリというメーカーが発売し、当時はちょっとウエスタンなデニム地(厚紙を薄いデニム生地で包んだ素材でつくられていた)のものが主流でした。
 ミドリの「グルービーケース」も大ヒット商品になりましたが、NFLタイプをつくったのはマルマン(*3)。同社がNFL各チームのロゴをデザインした 「グルービーケース」を発売したのは1974年のこと。なんとこの会社、当時、NFL関連の文具を独占販売する権利を持っていたそうです。
 どうりで、小学生時代の文具を思い出すと、コクヨやゼブラなどよりまっさきにマルマンのロゴが頭に浮かんでくるわけです。

 「グルービーケース」以外にも、ルーズリーフ、ノート、下敷き、消しゴム、筆箱、鉛筆などが続々と発売され、子どもたちのランドセル内の、文字通り全アイテムがNFLのチームロゴに彩られました。

 なかでも「グルービーケース」と並ぶ必須アイテムだったのが下敷き(安価だし、コレクションも可能でした)。
 さまざまなデザインがありましたが、表面は個々のチームの試合風景、裏面に全チームのロゴ付きヘルメットがズラリと並んでいる、というタイプが基本型。さらにチームロゴ入りヘルメットの形の鉛筆削りなんてのも人気でした。
 僕の印象に強く残っているのは、ボール型の消しゴム。NFLのロゴが入ったプラスチック製のリアルなフットボールのミニチュアで、中央からパカッと割る と四角い消しゴムが出てくるというモノ。デカすぎて筆箱にも入らず、なんとも扱いずらいシロモノでしたが、オモチャっぽいギミックが楽しかったんです。

 文具が巻き起こしたNFLブームはアパレル関係にも飛び火し、トレーナーやTシャツ(胸にドーンとチームロゴ入 りヘルメットがプリントされている)、シューズ、靴下などなどが続々登場。これもクラスの男子連中がこぞって身につけました。持ちものばかりか、自分自身 の体もNFLのロゴだらけ、という状態。さらにペナントだとかポスターだとか、インテリア系のグッズも発売されて、ついには部屋の中までNFLに占拠され ました(*4)。

 僕自身、このブームに首までドップリつかっていて、身のまわりのすべてが「ピッツバーグ・スティーラーズ」一 色。ただし、「スティーラーズ」ものは売り切れ続出で、トレーナーだけは涙をのんで「ワシントン・レッドスキンズ」を着ていました。数あるチームのなかで も、当時は「スティーラーズ」と「マイアミ・ドルフィンズ」が僕の周囲では二大人気チームでしたね。
 ……といっても、それは単に「ロゴがカッコイイから」。なにしろ、みんなこれだけNFLに囲まれて暮らしているのに、選手の名前は一人も知らない、というありさまなんだから。
 思えば本当に摩訶不思議なブームでした。


(2009.2.13)

これがNFL下敷き。これでロゴとチーム名をひたすら暗記しました


2大人気チーム「ピッツバーグ・スティーラーズ」(左)と「マイアミ・ドルフィンズ」のヘルメット。なんとなくだけど、素直な子は「ドルフィンズ」、ひねくれた子は「スティーラーズ」が好きだった、という記憶があります





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(*1)1970年に現在のNFLが再組織化され、その数年後にアメリカンプロフットボールが初めて日本に本格的 に紹介されたらしい。これがブームの背景になっていたようです。また、フィンガー5のヒット曲「恋のアメリカンフットボール」も子供たちがNFLに興味を 持つ一助となったと思います。

(*2)試合はテレビでも放送されていたし、中学生なくらいになるときちんとゲームを楽しんでいた子も多かったらしい。

(*3)右のスケッチブックで有名な大手文具メーカー。

(*4)この時代のNFLグッズは資料が少なくて記憶を頼りにするほかないんですが、確か例によってガチャガチャなどにもさまざまな小物が登場していたと思います。
 また、ブカブカのヘルメットとユニフォームを着用した少年のNFLキャラが存在し(公式のものだったと思う)、この男の子の玩具も各種あったはず。
 さらに、これは誰に聞いても「知らない」と言われてしまうんですが、「カレッジフットボール」という名称の「超合金」(ダイキャスト製)のアメフト(っ ていうかラグビー?)人形も大手玩具メーカー(失念)から発売されました(NFLとは無関係の便乗商品)。僕はわけもわからず買ってもらったんですが、無 骨な人体模型のようでなかなかカッコよかった。知ってる人いないかな、これ?









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